「循環器系」ユニット講義録9,10

月日(曜日) 時限 担 当 講義内容 SBOs番号
5月 9日(木)
有 田
循環生理1 心臓機能、心電図 1、2、3、5
3
有 田
循環生理2 血圧、血液配分
3、6、7、10

SBOs

【生理】<変更あり>
 1) 心筋細胞の電気現象と刺激伝導を説明できる.
 2) 心電図の原理を説明できる.
 3) 心周期に伴う血行動態を説明できる.
追加)心拍出量の調節を説明できる.

 1) 心筋細胞の電気現象と刺激伝導を説明できる.
 心臓の刺激伝導系の経路に沿って、つぎのような興奮伝達がある。心房の洞房結節で発生した自働興奮が心房筋の全体に広がり、心房筋を収縮させる。心房筋の興奮は房室結節に収斂し、ヒス束→左右の脚→プルキンエ線維を伝導し、心室筋全体に達して心室収縮を引き起こす。
心房筋、左脚・右脚、プルキンエ線維、心室筋などの細胞は深い静止電位を示し、その活動電位は、0相:急速脱分極相、1相:オーバーシュートと初期再分極相、2相:活動電位が持続するプラトー相、3相:再分極相、4相:静止電位相、からなる。

心筋細胞の活動電位の各相に流れるイオン電流
0相:Naの内向き電流による急速脱分極
1相:一過性の外向きK電流による初期再分極
2相:内向きCa電流と外向きK電流のバランスによるプラトー相
3相:外向きK電流による再分極

 洞房結節と房室結節は上記の細胞と膜電位変化の点で違いがある。静止膜電位が浅く、4相において膜の緩徐脱分極が起こる。これは、細胞が自働性に発射活動を示す性質(自働能、ペースメーカー機能)である。電位変化が閾値に達すると、活動電位が発生し、細胞は自働性に発火する。

 洞房結節のペースメーカー電位(緩徐脱分極)は、アセチルコリン投与あるいは迷走神経刺激によって、スロープが緩やかになり、細胞の興奮頻度は低くなる。これは心臓拍動において徐脈にする効果となる。ノルアドレナリン投与あるいは交感神経刺激は、ペースメーカー電位のスロープを急峻にし、閾膜電位を過分極側にシフトさせて、興奮の頻度を高く(頻脈)する。

図1

図2

2) 心電図の原理を説明できる.

 心電図とは、心筋の興奮に伴って生じる電位を、体の特定の位置(例えば四肢誘導では、右手、左手、左足)においた電極で誘導し記録したものである。
P波、QRS群、T波などから構成される。
P波:心房筋の興奮と対応関係があり、心房筋の収縮を表現している。
QRS群:心室筋の興奮・収縮と対応する。
T波:興奮した心室筋の再分極を表す。

心電図の原理
 心臓は伝導性の組織(容積導体)で囲まれているので、個々の心筋細胞に起こった活動電位が起電力となって、それが周辺の伝導体に波及し電場を形成する。それを、身体のある二点に電極を置き、二点間の電位差として記録したものが心電図である。
 心臓内の活動電位は刺激伝導系を経由して心室へと伝搬する。その興奮伝導を、心筋線維の集合したものの興奮として合成し、その興奮波の伝搬を一本のベクトル(心ベクトル)によって表す。心臓が興奮していない状態ではベクトルは0であり、興奮が発生し伝搬するにしたがって、心ベクトルの方向と大きさが変わる。その心ベクトルを種々の誘導法で記録すると、固有の波形が得られる。
 標準肢誘導の場合、電極は左右の手首と左足首に置く。これらの三点からできる三角形を正三角形に置き換えて、重心に心臓があるとする。こうしてできた正三角形をアイントーベンの三角形と名付ける。
 心電図波形は、アイントーベンの三角形に心ベクトル(誘導ベクトル)を投射して、正負の符号を付けて電位をスカラー表示することによって得られる。

図3

3) 心周期に伴う血行動態を説明できる.

 心臓はリズム性に収縮と弛緩を繰り返し、その心拍動の周期を心周期と呼ぶ。心周期に伴って、心室内圧、動脈圧、心室容積、心房圧がどのように変わるかを、心電図や心音と関連づけて理解することは、重要である。

心室の等容性収縮期:心室に血液が充満されて、心電図のQRS群が出現すると、心室収縮が起こる。心室収縮が始まると、心室内圧が急に高まり、房室弁が閉じて、第一音が発生する。心室内圧が動脈圧を越えるまで、大動脈弁(半月弁)は閉じたままであり、心室内では血液の出入りがなく、容積が不変のまま、内圧だけが上昇する。

駆出期:心室内圧が動脈圧を越えると、半月弁が開いて、心拍出が起こる。やがて、心電図にT波が出現して、心室筋の再分極が起こると、心筋の収縮が止まり、心室内圧は下降し始める。心室内圧が動脈圧よりも低くなると、半月弁が閉鎖して、第二音が発生し、心臓からの血液の駆出は終わる。

等容性弛緩期:半月弁(大動脈弁)が閉じた後も、心室筋の弛緩が進行し、心室内圧が心房圧よりも高い時には、房室弁も閉じたままであり、心室容積は変わらずに、心室の弛緩が起こる。

充満期(流入期):心室内圧がゼロに近づいて、心房圧よりも低くなると、房室弁が開いて、心房から心室への血液の流入が起こる。

心房収縮期:心房筋の脱分極に伴って、心電図にP波が現れ、心房は収縮する。心房収縮は心室への血液充満を更に増やす効果がある。

<図3参照>

追加)心拍出量の調節を説明できる.

スターリングの心臓の法則
 心筋は長さ張力関係にしたがって、収縮開始時の筋長により、発生張力が調節される。これを心臓にあてはめて、心拍出量曲線として表したものが、スターリングの法則である。
 この法則は心肺標本の実験で見つけられた。心室容積、血圧、静脈圧を計測しながら、静脈から心房・心室への血液流入を増やすと、心室が収縮する前の血液充満が増えて、心筋が引き延ばされ、心臓からの駆出量(心拍出量)が増え、血圧が上昇する。
 横軸に静脈環流量の指標である心房圧を、縦軸に心臓の機能である心拍出量をプロットしたものが、心拍出量曲線である。右房圧の上昇は、心室の拡張期の血液充満度の増加、心筋の筋長の増加に対応し、それが心拍出量の増加と比例する。
 このような心筋の収縮特性は、さまざまの外因性機構によって修飾される。
心臓交感神経の刺激は、心筋の収縮特性を上昇させる(正の変力作用)
心臓迷走神経(副交感神経)の刺激は負の変力作用を及ぼす。

図4