「運動器(筋・骨格)系」ユニット講義録17,18

月日(曜日) 時限 担 当 講義内容 SBOs番号
5月23日(木)
2
田岡
運動生理5変更 筋紡錘、手の機能 35,38
3
田岡
運動生理6変更 前庭動眼反射
40

SBOs
38) 筋紡錘、ゴルジ腱器官の構造と機能的役割を説明できる. 
40) 前庭動眼反射について述べることができる.
(変更・削除) 35) 手の機能を説明できる.

38) 筋紡錘、ゴルジ腱器官の構造と機能的役割を説明できる. 

筋紡錘の構造:
全長6-8mmで皮膜(結合組織)に包まれている。錘内筋線維の両端は結合組織を介して錘外筋線維と連絡している。
錘内筋線維:
・筋紡錘1個当たり2〜12本あり、以下の特徴を持つ。
・錘内筋線維中央部には感覚神経(求心神経)終末が存在する
・錘内筋線維中央部にはγ運動ニューロンの終末が存在する
・錘内筋線維中央部は 収縮たんぱく質を欠いている
・核袋線維(nuclear bag fiber)と核鎖線維(nuclear chain fiber)がある
求心神経:Ia群線維(15−20μm)とII群線維(6−12μm)がある。Ia群線維は同名筋、協力筋のα運動ニューロンと単シナプス結合する。
運動神経:γ運動ニューロン(3−8μm、15−40m/sec)が興奮すると錘内筋が収縮する。

筋紡錘の神経生理学
筋紡錘の働き

Ia群線維は筋肉長の変化に応じて発火頻度が変化する。具体的には、筋の伸張により発火頻度が増加する。筋紡錘は筋の長さの変化を検知するセンサーである。
γ運動ニューロンの働き
脊髄前根を切断するとIa群線維の発火頻度が著しく減少する。筋紡錘の感度はγ運動ニューロンにより遠心性の調節を受けているためである。γ運動ニューロンの活動により、錘内筋線維が収縮すると筋紡錘の両端のみが収縮するので、感覚神経終末が分布する領域は伸張させらる。その結果、Ia線維の発火頻度が増加する。
この機構が存在する理由は、α運動ニューロンの活動により筋肉が収縮した時に筋紡錘は弛緩した状態になり(脱負荷)、発火頻度が減少してしまう(発火の一過性の消失)事を防ぐことにある。言い換えると、筋肉収縮時にも筋紡錘が正しく筋肉長の変化を検出するために、筋紡錘の感度を上げることが必要となり、そのためにγ運動ニューロンが活動し、錘内筋が収縮させる、ということである。

Ia群線維の働き
単シナプス性脊髄反射である伸張反射などにより、筋肉長を一定に保つ。
上位中枢に情報を送り、関節の動きや角度の認知および運動の調節を行う。

随意運動とα―γ連関
一般に大脳皮質運動野から下行してきた運動指令はα運動ニューロンとγ運動ニューロンの両方に伝えられる。γ運動ニューロンの興奮は筋紡錘―Ia群線維を経てα運動ニューロンに伝わる。つまり、骨格筋の収縮は2種類の経路―α経路とγ経路―により行われる。
実際、Ia群線維の活動は随意運動時に上昇する。これにより、筋肉収縮時に筋紡錘が脱負荷となる状態を避けていると考えられる.


ゴルジ腱器官
500-1200μm長100-120μ径の器官で骨格筋と腱の移行部にある。コラーゲン線維の皮膜に覆われた構造を持つ.
一端は腱にもう一端は10-25本の筋線維に結合している.求心神経であるIb群線維はα運動ニューロンと複数個のシナプスを介して連絡している.

筋肉が収縮し張力が増加すると発火頻度が増加する。しかし、腱反射のように殴打する刺激では筋紡錘は刺激されるが腱器官は刺激されない。
Ib群線維による反射は多様であるが、張力の発生―Ib群線維の活動―α運動ニューロンの抑制という機構で筋の張力を一定に保つ働きがあると考えられている。

手の機能
筋紡錘の密度は筋により異なる。(人上腕2頭筋で320個)
筋肉のグラム当たりの数は、人上腕2頭筋で2個/gだが、手足虫様筋では20個/gである。手指を動かす筋肉では筋紡錘の密度が高くなっている.これにより手指の微妙な動きの制御が可能となっている.

40) 前庭動眼反射について述べることができる.

はじめに
自身の体(頭部)が動くと視界が動く。このとき、網膜上の像も動く。その動きを相殺するような眼球の動きをすれば、網膜像は動かない。このような網膜像を安定化させる機能をもつ、反射的な眼球運動を代償性眼球運動という。
(例)ビデオカメラをもって、歩きながら撮影すると
ファインダーをのぞいているときは像がぶれていることに気が付かないが、撮影後に再生してみると像が上下に激しくぶれている。これは歩行時に頭部の動きに合わせて眼球が上下に反射的に動いているため、像のぶれに気がつかないからである。

眼球運動には様々な種類があるが、単純化のため、左右の眼球が共同して水平方向に動く場合に限定して以下の説明を行う。

眼球運動の測定方法
EOG(Electro−Oculogram)
眼球は角膜側が網膜側に対して正となる電位差が存在する。これを角膜網膜電位という。
眼球の左右に電極を装着すると、眼球の水平方向の動きの大きさに応じて電極間の電位差が変化する。EOGは左右の電極の電位差を測定した結果を、横軸を時間、縦軸を電位差にしたグラフである。通常、眼球を右に動かした時の電位変化を正にする(EOGで上向きの時、眼球は右に動いている)。

代償性眼球運動
頭部が水平に回転したとき、眼球が反射的に頭部の動きとは反対方向に動くことで頭部の動きを相殺し、網膜像のぶれをなくす。
代償性の眼球運動には前庭動眼反射と視運動性眼球運動という2つの反射が関わっている。それぞれ頭部の回転方向と逆向きの眼球運動を引き起こすことは同じであるが、反射を引き起こす刺激がちがう。

前庭動眼反射(vestibulo-ocular reflex、VOR)
頭部の回転が刺激となって反射が生じる。頭部の回転は前庭器官の半規管により検知される。

視運動性眼球運動(optokinetic eye movement、OKR)
視界の動きそのものが刺激となる。網膜上の像のずれ(retinal slip)を検知する。

この2つの反射的眼球運動が関与していることは、閉眼時でも頭部を回転させた時に代償性の眼球運動が引き起こされること(前庭動眼反射)、開眼時に頭部を動かさずに視界を動かしたときにも(動く電車から外の景色を見ている状態)代償性眼球運動が引き起こされること(視運動性眼球運動)により、明らかである。従って、開眼時に頭部を動かすと前庭動眼反射と視運動性眼球運動が同時に誘発されていることになる。

眼振(nystagmus)
眼球運動の速度の遅い緩徐相と速い急速相を繰り返す眼球運動で以下の二つが重要である。
前庭性眼振:前庭動眼反射を誘発する刺激が継続的に加わる。
視運動性眼振:視運動性眼球運動を誘発する刺激が継続的に加わる。

緩徐相における眼球運動が代償性の眼球運動(前庭動眼反射もしくは視運動性眼球運動)で急速相における眼球運動は端に寄った眼球を元に戻す運動である。
急速相における眼球の動く向きをもって「眼振の向き」と定義する。


代償性眼球運動にかかわる神経機構
各眼球には6種類3対の外眼筋(上直筋と下直筋、内直筋と外直筋、上斜筋と下斜筋)がある。
右向きの水平性眼球運動では、右眼の外直筋と左眼の内直筋が収縮し、それぞれの拮抗筋(右眼の内直筋と左眼の外直筋)が弛緩する。

前庭動眼反射の神経機構
頭部の左向き水平回転時に誘発される前庭動眼反射を例にその反射弓を説明する。この場合、右向きの水平性眼球運動が誘発される。
@前庭器官のうち、水平回転で重要な器官は水平半規管である。頭部の左向き水平回転時の一次求心神経の活動をみると、左水平半規管の求心神経の発火頻度は増加し、右は減少する。水平半規管を含む前庭器官からの一次求心神経(前庭神経)は前庭神経核に入力する。
A眼球を右に動かす時に収縮する左右の眼球の外眼筋運動ニューロン(左眼内直筋運動ニューロンと右眼外直筋運動ニューロン)を興奮させる回路が存在する。
左側前庭神経核―(興奮)―>右側外転神経核の外直筋運動ニューロン
左側前庭神経核―右側外転神経核―(興奮)―>左側動眼神経核の内直筋運動ニューロン
上記二つが重要であるが,それ以外に
左側前庭神経核―(興奮)―>左側動眼神経核の内直筋運動ニューロン
という回路も存在する。
B眼球を右に動かす時に弛緩する左右の眼球の外眼筋運動ニューロン(左眼外直筋運動ニューロンと右眼内直筋運動ニューロン)を抑制する回路が存在する
左側前庭神経核―(抑制)―>左側外転神経核の外直筋運動ニューロン
左側前庭神経核――>左側外転神経核―(抑制)―>右側動眼神経核の内直筋運動ニューロン
(頭部が右向きに回転した場合は左右を逆にすればよい)

視運動性眼球運動の神経機構
網膜視細胞からの情報が視床外側膝状体を経由せずに視蓋前域に入力し橋被蓋網様核を経由して、前庭神経核に入力する。これ以降は前庭動眼反射に同じ。