BRTO
(ballon occluded retrograde obliterration)

 門脈圧亢進症のおける静脈瘤に対する治療には直達的治療法とシャント形成術などによる
門脈圧を低下させる治療法とに大別される。
 現在では食道静脈瘤のほとんどは内視鏡的によって治療され,その治療成績も良好である。
しかしながら、胃静脈瘤やその他の異所性静脈瘤などの内視鏡的治療の困難な例も少なから
ず存在する。
これらの治療法の一つとしてBRTO(Ballon occluded retrograde obliterration)以下
BRTOは登場した。

 基本的に排血路をバルーン閉塞下に液体塞栓物質(ethanolamine oleate ,EO)を用いて
門脈亢進症の側副血行路(静脈瘤)を塞栓する方法である。
排血路を完全に塞栓することにより側副路が閉鎖となり、血栓化が促され、完全な血栓化と
再発の予防ができる。
BRTOは基本的に排血路をバルーン閉塞下に液体塞栓物質(ethanolamine oleate;EO)を
用いて、門脈圧亢進症の側副血行路
(静脈瘤)を塞栓する方法である。
静脈瘤の供血路は何本もあり、
これらをすべて塞栓したとしても、また新たに側副血行が発達
してくる。
これはかつて経皮経肝的門脈塞栓術(PTO)により治療を行った際に経験されていることで
ある。
 一方、排血路は多くは太いものが1,2本で、
加えて細い分岐が数本みられることが多くかつ
液体塞栓物質を用い、
逆行性に側副路の内腔を充満し、完全に血栓化することにより治療す
方法である。
 BRTO後の治療経過は、3ー7日後で静脈瘤はやや膨隆し、静脈瘤表面に網目状に発赤が
みられる。
しだいに発赤は消退し、約1−3ヶ月後に瘤の平坦化、または消失がみられる


BRTO前

BRTO後


 近年、BRTOを含め静脈瘤に対する種々の治療法があるが、これらの治療法の適応や選択には静脈瘤の血管解剖とそれらの血行動態に対する分析が必須である。
胃静脈瘤をはじめ、食道静脈瘤以外の静脈瘤の血管解剖を図1に示す。
胃静脈瘤では、その供血路は左胃静脈、さらに脾静脈の中部より分岐し、胃噴門部後壁に分布する後胃静脈があり、その他、脾静脈および門脈本幹より後腹膜を経由する細い血管群(無名静脈)が存在する。さらにいえば、左胃動脈などの動脈系も関与している。
 一方、排血路では胃静脈瘤から左腎静脈に流入するいわゆる胃―腎シャントがあるが、
この経路にあたる静脈は一般的に左下横隔膜静脈(inferior phrenic vein)とされている。
なお、胃静脈瘤はいわゆる脾―腎シャントの途上に形成されたものであり、脾―腎シャントには胃穹窿部後壁の背側を走行するも胃壁内に静脈瘤を形成せず、直接、下横隔膜静脈を経て左腎静脈に流入する。下横隔膜静脈は、頭側では横隔膜膜に分布し、左肝静脈流入部直上、横隔膜直下で下大静脈に流入する分枝があり、これらを含め下横隔膜静脈と総称している。
 しかし、BRTOなどの臨床的には下大静脈に直接流入する分枝は区別する必要があり、横隔膜下静脈(infraphrenic or subphrenic vein)とした。下横隔膜静脈は横隔膜に達した部位で右方向に横隔膜下静脈を分岐し、また、その部で心膜を経由し、左鎖骨下静脈に流入する心膜周囲静脈(pericardial vein or cardiophrenic vein)と吻合している。
 また、下横隔膜静脈からみると、下横隔膜静脈の本管はほぼ直角に前方に向かって分岐している。
また、下横隔膜静脈の腎静脈近傍では腰静脈や左精巣(卵巣)静脈との間に吻合枝をもつ。
さらに分岐では左腎被膜静脈と考えられる分枝が流入している。
 胃静脈瘤は、下横隔膜静脈の左腎静脈から比較的直線的に上行にている部位に、1本または数本の静脈枝をもって流入している。
 胃静脈瘤の排血路には下横隔膜静脈のほかに食道―胃接合部の粘膜下静脈叢を経由した食道静脈、傍食道静脈も排血路の役割を果たしている。

胃静脈瘤以外では、十二指腸静脈瘤は門脈本幹や上腸間膜静脈接合部近傍から分布する膵十二指腸静脈および膵頭部に分布する静脈枝を供血路とし、排血路は後腹膜の静脈枝、主として腎被膜周囲静脈が関与している。
 腎被膜静脈は腎外側で上下に2分岐しており、上枝は右腎静脈分岐部またはその直上に流入しており、下枝は右精巣(卵巣)静脈分岐部に合流する。
 右精巣静脈は右腎静脈直下にほぼ腎静脈の分岐に接するように流入している。この腎被膜周囲静脈は中結腸静脈瘤などの排血路としても関与している。

 盲腸静脈瘤は結腸間膜付着部に沿う後腹膜静脈枝から直接、または精巣静脈などを介して還流している。上腸間膜静脈からも腸間膜付着部を介した吻合(veins of Retzius)がある。
 直腸静脈瘤の排血路は主として中、下直腸静脈を介して内腸骨静脈に流入するが、これら以外にも細い静脈枝が存在している。さらに内腸骨静脈と外腸骨静脈間には多数の吻合枝がみられる。



図1