マイクロアレイ解析

 

 細胞性粘菌にはいくつかの異なる細胞運動があります。1つは単細胞として生活しているアメーバ細胞の捕食行動で、餌を探して動き回っているときのものです。2つめは個々のアメーバ細胞が集合するときの走化性運動と、もう1つは多細胞体中での形態形成運動における個々の細胞の運動です。さらに、子実体形成期にはもう1つの運動(?)があると考えてもよいかも知れません。子実体形成においてはプログラム細胞死によって液胞化した柄細胞が作られますが、柄細胞中では細胞が植物細胞のように強固に配置されていて個々の細胞は運動出来なくなります。この柄細胞形成過程はちょうどガン細胞の浸潤・転移能獲得とは反対の間葉-上皮転換(MET)のようです。面白いことに、細胞性粘菌にも転写因子STATが存在し、これらの細胞運動のうち走化性と最後の細胞死に関しては細胞性粘菌のSTATaが関与しています(間接的かも知れませんが)。

 細胞性粘菌では分子遺伝学的方法を用いることによってSTATaマルチコピーサプレッサー遺伝子や、in situハイブリダイゼーション法によってSTATaの標的遺伝子の単離を行うことが出来ます。2005年に細胞性粘菌の全ゲノム配列の解読が終了しその結果がNature誌に公表されました。その結果は、プロテオームレベルで細胞性粘菌の側からみると、細胞性粘菌の細胞はどうやらどのモデル生物よりもヒトに近いといえます。非常に多くの既知ヒト疾患原因遺伝子のオーソログが細胞性粘菌にも存在することもわかりました。我々が今までに得た多くのSTATa関連遺伝子もそのオーソログと考えられるものがヒトにも存在します。当研究室でSTATaのマルチコピーサプレッサー遺伝子のスクリーニングに使用したSTATa遺伝子部分破壊株(下図のGFP::STATa(core)を発現させたもの)の性質から集合時の運動に関与するSTATaの領域が明らかになりました。この結果を利用すれば、将来的にはその領域を用いて相互作用するタンパク質をスクリーニングやサプレッサー遺伝子等のスクリーニングによって細胞運動に関与する新規遺伝子をクローン化することが出来るはずです。

 ここでは、英国サンガー研究所および英国MRCケンブリッジ研究所の全面的な協力を得て、マイクロアレイ法によってSTATa遺伝子破壊株、STATa遺伝子部分破壊株及び野生株における遺伝子変動をおよそ9000の遺伝子について比較しました。その結果、統計的に意味のある変動をする遺伝子が250あまりあることがわかりました(下図)。

 また、集合期の細胞運動の制御に重要な差異と考えられるSTATa遺伝子部分破壊株と野生株の間では数十の遺伝子に優位な発現の差が見らました。現在のところ、意味のある遺伝子がたくさんとれてきましたという状況で、それぞれの機能についてはこれから1つ1つ調べていく予定です。

マイクロアレイ解析の結果をサマライズしたヒートマップ

 

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