プログラム細胞死関連遺伝子 pdcdA STATa サプレッサー NK23 クローンの解析

安立 さなえ

 

 細胞性粘菌 Dictyostelium discoideum は最もシンプルな真核多細胞微生物で、単細胞のアメーバとして 2 分裂で増殖する時期と多細胞体を形成して移動体を経て子実体を形成する時期がある。遺伝子操作が容易で、ゲノムの全塩基配列決定がほぼ終了していることから、発生生物学のモデル生物として多用されている。

 多細胞生物の発生過程における遺伝子発現に、STAT (signal transducer and activator of transcription) と呼ばれる転写因子が関わっている。細胞性粘菌においては Dd-STATa~d 4 種類が見つかっていて、それぞれの遺伝子破壊株が作製されて解析が進められている。Dd-STATa は細胞性粘菌の子実体形成に必須であり、それによって調節をうける様々な遺伝子群の働きで子実体が形成されることが考えられている。

 本研究では、Dd-STATa によって発現が制御され、かつプログラム細胞死に関連する遺伝子の候補の一つとして単離されてきた EST クローン SSA284 に対応する DDB0238055 遺伝子についてその機能解析を行なった。DDB0238055 遺伝子はマウスの Programmed Cell Death Protein-11 (PDCD11) と最も相同性が高いことから、pdcdA 遺伝子と呼ぶことにした。pdcdA 遺伝子過剰発現株を作製した結果、Ax2 株より発生が 2 時間程度遅れることがわかった。また、pdcdA 遺伝子のプロモーター領域を lacZ 遺伝子のコード領域に結合させたレポーターコンストラクトを作成し、それを Ax2 株と Dd-STATa null 株に形質転換した結果、pdcdA 遺伝子はtip 及びfirst finger 期では pstA 細胞で発現し、culminant 期では upper cup, lower cup, stalk tube で発現が見られた。次に、PdcdA タンパク質の局在を調べるために、DsRed2 融合タンパク質過剰発現株を作製し、単細胞にばらした状態を蛍光顕微鏡で観察した。その結果、DsRed2 融合タンパク質は核内部の周辺かごく近傍に付随する形で存在することが明らかになった。pdcdA 遺伝子は、出芽酵母のRrp5p 遺伝子と相同性がある。Rrp5p タンパク質は核小体に存在することが知られていることから、PdcdA タンパク質は核小体に存在する可能性が高いと考えられる。

 また、以前に Dd-STATa のサプレッサークローンとして単離された NK23 クローン (clcE遺伝子の一部) について、サプレッションに翻訳が必須であるかどうかを調べる実験を行なった。CBS ドメインを含む領域のフレームシフト変異を作成し、作成したコンストラクトを細胞性粘菌 STATa 遺伝子部分破壊株に形質転換しクローン化させ、発生させて 36 時間後に、全体の多細胞体数と子実体数を数えて子実体形成率を調べた。その結果、フレームシフト変異をさせると、変異前に比べ子実体形成率は低下し、サプレッションしないことが明らかとなった。このことから、少なくともclcE 遺伝子の CBS ドメインがサプレッションを起こすためには翻訳される必要があることが明らかとなった。