STATa標的候補遺伝子の機能解析とデーターベースによる新規STAT関連遺伝子の検索
青島
良太
STAT
(signal transducer and activater of transcription) は生体内の重要なシグナル伝達経路の一つであるJAK/STAT経路を構成し、細胞運命の制御をすることで発生、免疫、造血など広い範囲の現象に関わる転写因子である。JAK/STAT経路は、まずリガンドの結合によりレセプターの複合体が形成され、レセプターは互にリン酸化しあう。すると細胞質内に遊離していたSTATはレセプターと結合し、同時にレセプターに結合しているJAKが活性化してSTATをリン酸化する。次にSTATは二量体を形成して核内へと移行し、標的遺伝子の転写を制御する。JAK/STAT経路の抑制因子としては、SHP、PIAS、SOCS、促進因子としてはSTAMが知られている。また、TGF-β経路やNotch-Hesシグナルなどその他のシグナル経路とクロストークする事が知られている。
細胞性粘菌
Dictyostelium discoideumは半数体であるため遺伝子破壊株の作成が容易であること、またユニークな発生過程をもつので、細胞運動や分化・形態形成などの様々な機構を研究するための優れたモデル生物である。この最も原始的な多細胞生物にもSTATが存在し、Dd-STATa〜dの4種類が知られている。Dd-STATaの標的遺伝子としてはecmB、cudA等が知られるが、Dd-STATaのmRNAと空間的局在が一致するESTクローンがin situ
hybridizationにより調べられ、いくつかのクローンが標的遺伝子候補として確認された。その中の一つはSSK395でありadducinの頭部と相同性を持っていた為、それをコードする遺伝子をahhA(adducin head homologue A)遺伝子と名づけた。adducinはヒトの赤血球などの細胞骨格を構成するスペクトリン-アクチン複合体のキャップタンパクである。
本研究ではahhA遺伝子の機能が未知なので、ノックアウト株を作製し推定することを試みた。得られたノックアウト株の表現型は子実体形成期に予定胞子細胞の先端が野生株よりもくびれたり、曲がる形態を示した。また、レスキューにより形態が元に戻ったことから、この表現型がノックアウトによると言えた。このくびれた部分にはアクチンがリング状に存在する事からも、ahhA遺伝子の産物がadducinと同じようにアクチンと結合し細胞骨格を形成することで、正常な形態を保つ働きをしていると考えられる。
もう一つの研究テーマとして、新規STAT関連遺伝子の検索を行なった。細胞性粘菌において、STATシグナルはJAKの様なチロシンキナーゼから調節因子、その他シグナル経路とのクロストークに至るまでほとんど分かっていない。そこで、それらの存在を明らかにするために哺乳類等でSTAT経路に関連している遺伝子の塩基配列を、細胞性粘菌ゲノムデーターベースを利用して相同性検索を行なった。その結果、PIAS、Notchに似ている遺伝子が見つかり、それぞれNotch-like遺伝子、Dd-PIAS遺伝子と名づけた。これらの機能を調べるために、ノックアウト株を作製したところ、どちら株の表現型も野生株と差が見られなかった。更に、Dd-STATa破壊株において発現量を調べたところ、Notch-likeは野生株と変わらなかった。一方、Dd-PIASは発現量が下がっていたのでSTATaの下流に存在する可能性が示唆された。
今回の結果ではこの二つの遺伝子が細胞性粘菌におけるそれぞれのオーソログであるかは明らかにならなかった。今後、それぞれのノックアウト株のDd-STATaの局在や、その他のマーカー遺伝子の発現を調べる事でその機能を更に解析する必要があると考えられる。