細胞性粘菌におけるプログラム細胞死関連遺伝子pdcdAの解析

高橋 あずさ

　細胞性粘菌の一種であるキイロタマホコリカビDictyostelium discoideumは、十分な栄養の存在下では単細胞として存在し、バクテリアや酵母を餌として分裂・増殖を繰り返す。ところが、飢餓状態へ陥ると、集合して多細胞体を形成する。遺伝子操作が容易で、ゲノムの全塩基配列がほぼ終了していることから、発生生物学のモデル生物として多用されている。

　STAT (signal transducer and activator of transcription) は、細胞内シグナル伝達経路一つであるJAK/STAT経路を構成する転写因子である。細胞性粘菌においては、Dd-STATa~dの4種類が発見されており、それぞれの遺伝子破壊株が作製されて遺伝子の解析が進められている。細胞性粘菌の子実体の柄細胞はプログラム細胞死を伴って形成され、その形成においてDd-STATaが必須であるということが明らかにされている。

　本研究では、Dd-STATa によって発現が制御されかつプログラム細胞死に関連する遺伝子の候補の１つとして単離されてきたESTクローンSSA284に対応する DDB_G0290181 (pdcdA) 遺伝子についてその機能解析を行なった。この遺伝子はマウスのPDCD11と最も相同性が高いことからpdcdA遺伝子と名付けられた。以前の研究では、pdcdA過剰発現株において発生が2時間程度遅れることがわかっている。またlacZレポーター遺伝子を用いた解析から、pdcdA 遺伝子はtip及びfirst finger期ではpstA細胞で発現し、culminant期ではupper cup, lower cup, stalk tubeで発現が見られた。DsRed2融合タンパク質は核の周辺かごく近傍に存在することが明らかにされている。本論文では、以前の研究において未解析のままになっていた点に重点を置き、解析した。今回、DsRed2融合PdcdAタンパク質発現株を解析した結果、mound及びtip期において多細胞体全体で発現が見られ、culminant期ではupper cup (pstO細胞), lower cup (主にpstB細胞) とbasal disc (pstB細胞) で発現が観察された。また、融合タンパク質はmoundおよびtip期に強い発現が見られ、発生段階が進むにつれて発現が弱くなった。半定量的RT-RCR法および塩基配列の解析からは、発生開始後18時間目以降ではイントロンの切り出しが正しく行われず、PdcdAタンパク質が正常に発現しているのは発生開始18時間目以前であることが判明した。しかし、18時間目以降に別のタンパク質が発現している可能性が考えられたため、DsRed2融合C末欠損PdcdAタンパク質発現株を作製して解析を行ったが、一切発現がみられなかった。また、新しく作製した過剰発現株の集合期の速度変化から、集合の制御に関わっていることが推測された。しかしながら、pdcdA遺伝子破壊株およびノックダウン株が得られていないため、PdcdAタンパク質の機能についてはわかっていない。よって、今後も引き続きpdcdA遺伝子ノックダウン株のスクリーニングが必要である。