Dd-STATaリン酸化チロシンキナーゼの探索と関連遺伝子の機能解析
平野 達紀
STAT(signal transducer
and activator of transcription)はインターフェロンやインターロイキン等のサイトカインや増殖因子等に応答し、JAK/STATシグナル伝達経路の最後に位置する転写因子である。STATは発生、分化、細胞増殖、免疫応答やプログラム細胞死など多様な生命現象に関与し、真核多細胞生物に広く保存されている。
哺乳類において、PIAS(protein inhibitors of activated STAT)はJAK/STAT経路の負の制御因子として同定された。当研究室の以前の研究で、ヒトのPIAS1と相同なアミノ酸配列をもつPIAS様の因子(Dd-PIAS)の遺伝子がクローン化され解析されてきた。本研究では、新たにDd-PIAS遺伝子変異株を作製し、Dd-PIASの機能について詳細に解析した。Dd-PIAS遺伝子破壊株は野生株よりも発生速度が速くなり、逆にDd-PIAS過剰発現株では遅延した。また、野生株とDd-PIAS遺伝子破壊株は正常な走光性を示したのに対して、Dd-PIAS過剰発現株では走光性を失っていた。次に、定量的リアルタイムPCR法によって、Dd-PIAS遺伝子変異株におけるDd-STATa依存的発現を示す遺伝子の発現量の変動を調べた。その結果、Dd-STATa依存的発現を示す遺伝子であるcudA、ecmF、aslA及びexpL7はDd-PIAS遺伝子破壊株において発現が上昇していた。また、cudA、ecmF及びaslAについてはβ-ガラクトシダーゼ解析でも同様の結果が得られた。野生株とのキメラ株では、Dd-PIAS遺伝子破壊株の細胞が優先的にオーガナイザー領域に蓄積されていた。Dd-STATaはオーガナイザー形成も司ることから、これらの結果よりDd-PIASはDd-STATaを負に制御していることが強く示唆された。
JAK/STAT経路を構成する主要な構成要素はリガンド、受容体、チロシンキナーゼ、STATタンパク質の4つである。哺乳類及びショウジョウバエでは主要な4つの構成要素が特定されているが、細胞性粘菌ではSTATタンパク質のチロシン残基をリン酸化するチロシンキナーゼは未だ同定されていない。本研究では、細胞性粘菌のチロシンキナーゼをコードしていると思われる遺伝子のキナーゼ・ドメイン過剰発現株を作製し、Dd-STATaに着目してリン酸化レベルの変化を解析することでDd-STATaの活性化に関わるチロシンキナーゼを探索し、同定することを目的とした。ピックアップした74個の遺伝子のうち、15個の遺伝子についてキナーゼ・ドメイン過剰発現株を作製した。これらの株を用いてcAMP誘導実験を行い、抗リン酸化Dd-STATa抗体を用いたウエスタンブロット解析により、Dd-STATaのチロシン残基のリン酸化レベルを調べた。その結果、リン酸化レベルが有意に上昇した遺伝子として4つの遺伝子をピックアップした。今後、これらの4つの遺伝子の遺伝子破壊株を作製してDd-STATaのリン酸化レベルの変動を調べる必要がある。