Dd-STATa関連遺伝子の発現パターン解析

平岡 里枝子

 

細胞性粘菌(Dictyostelium discoideum)は、富栄養状態ではアメーバ細胞として分裂増殖する単細胞生物であるが、飢餓状態に陥ると細胞が集合し、最終的には柄と胞子からなる子実体を形成する真核多細胞微生物である。

 シグナル伝達転写因子STATSignal Transducer and Activator of Transcription)は、サイトカインや増殖因子の刺激により活性化される転写因子で、細胞性粘菌では4種類のSTATad)が発見されており、遺伝子破壊株も存在する。Dd-STATa遺伝子破壊株は、移動体で発生が止まり子実体形成が見られないため、Dd-STATaによって調節を受ける様々な標的遺伝子は子実体形成に必須な重要な遺伝子であると推測される。

本研究で扱ったDd-STATa関連遺伝子は、ahhAadducin head homologue A)遺伝子とzntA zinc transporter A)遺伝子である。ahhA遺伝子は、Adducinの頭部のActin-binding domainを含む領域と相同性をもち、およそ30kDaのタンパク質をコードすると予想される。また、zntA遺伝子は、STAT3の下流標的因子として同定されたZinc transporterタンパク質LIV-1と相同性をもつタンパク質をコードする遺伝子である。この二つのDd-STATa関連遺伝子の発現のパターンを解明するためにβ-galactosidase染色法を用いたプロモーター解析を行った。ahhA遺伝子のプロモーター解析の結果、ahhA遺伝子の発現のピークが発生の早い時期と遅い時期の二つの時期にあり、両時期のahhA遺伝子の発現に必要な領域が異なることが分かった。発生の早い時期には、欠損変異プロモーターを有する5’Δ-174は染色され、5’Δ-132は染色されなかったことから、 -174-132bpの領域(翻訳開始点を+1とする)がahhA遺伝子の発現に必要な領域であることが分かった。遅い時期には、5’Δ-473は染色され5’Δ-174より下流は染色されなかったことから、-473-174bpの領域が発現に必要であることが示唆された。また、同様にzntA遺伝子のプロモーター解析を行った結果、zntA遺伝子の発現に必要な領域は、-462bpより下流であることが示された。今後、activator結合領域を解明する為に、更なる欠損変異および点突然変異コンストラクトを作製し、解析する必要があると考えられる。

また、AhhAタンパク質のWestern blotting法を用いたタンパク質の解析の結果、約30kDac-mycタグ付き融合AhhAタンパク質のバンドが検出された。今後、組織化学的染色法により細胞性粘菌内でAhhAタンパク質の発現する部位を解明し、また、AhhAタンパク質とactinとの結合性を解析していく必要があると考えられる。