プログラム細胞死関連遺伝子pdcdBの解析
柿崎 亮
細胞性粘菌Dictyostelium discoideumは、主として柄と胞子という2種類の細胞にしか分化しない多細胞体のモデル生物である。周囲に栄養がある環境では単細胞として分裂を繰り返すが、飢餓状態になるといち早く増殖周期から抜け出した細胞が集合中心として振る舞い、集合中心からパルス状に放出されたcAMPを走化性物質として周囲の細胞が集まり多細胞体を形成する。多細胞体はプログラム細胞死によって液胞化を起こして形成された柄とその上方に位置する胞子からなる子実体を形成するまで分化を続ける。
JAK-STAT経路は生物間で広く保存されているシグナル伝達経路の一つで、STAT (Signal Transducer and
Activator of Transcription)と呼ばれる転写因子が重要な働きをしている。細胞性粘菌はSTATを持つ最も下等な真核多細胞生物であると考えられており、これまでにDd-STATa〜dの4種類が同定されている。そのうちDd-STATaは柄細胞への分化に深く関わっており、プログラム細胞死と何らかの関連があると考えられている。今回研究に用いたDDB_G0284887遺伝子は、以前の研究においてプログラム細胞死に関連すると思われる遺伝子として同定されたものの一つで、ヒトのprogrammed
cell death-2 (PDCD2)タンパク質と相同性があることがわかっていた。そこで本研究ではDDB_G0284887遺伝子をpdcdBと名付け、半定量的RT-PCR法、pdcdB遺伝子破壊株、lacZレポーター遺伝子株、過剰発現株、DsRed2融合タンパク質発現株、pdcdBノックダウン株の作製等を通して遺伝子の機能解析を行った。
半定量的RT-PCR法の結果から、pdcdB遺伝子はDd-STATa非依存的に発現しており、さらに発生開始後0時間目で既に発現が見られ、6時間目に1回目の発現のピークを迎え、12時間目に発現が一度低下し、その後24時間目にまたピークを迎えるという発現パターンを示した。またlacZレポーター遺伝子発現株及びDsRed2融合PdcdBタンパク質発現株の解析から、pdcdB遺伝子はMexican hat期まではpstAO細胞領域で発現しており、その後culminant期に入ると胞子とpstB細胞領域でも発現が見られることが分かった。以上のことから、pdcdB遺伝子は発生後期に発現しプログラム細胞死を伴う柄の形成に関与している可能性が考えられる。今後はpdcdB遺伝子破壊株を作製して解析を行い、この仮説を検証していく必要がある。