タッギング突然変異体作成によるSTATaサプレッサー遺伝子単離の試み

片桐 祥子

 

 細胞性粘菌(Dictyostelium discoideum)は通常は半数体として生活環を過ごす真核多細胞微生物である。この生物では、さまざまな生命現象に欠陥を持つ変異株を容易に分離でき、それらを用いた分子遺伝学的解析が可能なモデル生物となっている。私達が研究している遺伝子はシグナル伝達転写因子STATである。細胞性粘菌ではこれまでに4種類のSTAT遺伝子(STATad)が見つかっており、それぞれの遺伝子破壊株が存在している。現在最も解明されているのがSTATa破壊株で、STATa遺伝子を欠損させると移動体で発生が止まり子実体を形成することができない。本研究では細胞性粘菌のSTATa遺伝子をモデルケースとし、何らかの抑制遺伝子が働いたことにより子実体形成が抑制されたと仮定してみた。STATa遺伝子存在下ではその抑制遺伝子の働きをSTATa遺伝子自身が阻害しており、その結果子実体を形成させる。しかしSTATa遺伝子破壊株では、STATaの阻害を受けず子実体形成の抑制が働いてしまうと仮定した。そこでこの抑制遺伝子を破壊すれば再び子実体形成が可能になると考えた。これを明らかにするために、私はREMI法と呼ばれるタッギング突然変異導入法をSTATa破壊株にて行った。REMI法とは線状化したタグDNAと制限酵素を同時に細胞に導入し、生きた細胞のゲノムDNAを制限酵素で切りながらタグを挿入する方法である。

REMI法により私はスクリーニングを3万クローンほど行ない、最終的に子実体のような形態を示すSTATa破壊株を見つけることが出来た。しかし単離の結果、それはSTATaサプレッサー遺伝子の関与によるものではなく、他のゲノム上での変異により生じたものだと明らかになった。STATaサプレッサー遺伝子の存在は明らかには出来なかったが、3万クローンのスクリーニングで結論を出すことは難しく、更なるスクリーニングが必要と考えられる。