STATaサプレッサ−の単離及びDicer様遺伝子drnAの解析
嶺村 翔
細胞性粘菌(Dictyostelium
discoideum)のアメーバは富栄養状態では単細胞として存在し、餌を捕食して生長し分裂によって増殖するが、飢餓状態に陥ると集合して多細胞体を形成する。STAT(Signal Transducer
and Activator of Transcription)タンパク質は、細胞内シグナル伝達経路であるJAK/STAT経路を構成する転写調節因子であり、Dd-STATaは細胞性粘菌の子実体形成に必須であり、それによって調節をうける様々な遺伝子群の働きで子実体が形成されると考えられている。
STATa遺伝子破壊株にレプリカーゼのORFを導入したstatA-::ORF+株に、Dd-STATaのN末端より236アミノ酸残基分を欠損させたDd-STATa遺伝子を形質転換して得たSTATa(core)::ORF+株は、Dd-STATa遺伝子部分破壊株と考えられている。本研究では、このSTATa(core)::ORF+株に、移動体期mRNAより構築したcDNAプラスミドライブラリーをエレクトロポレーション法によって導入し、スクリーニングによって形態が少しでも野生株に近くなった株を選択した。それらのクローンからプラスミドを単離することにより、マルチコピーサプレッサーを得ることが出来た。
今回得られたマルチコピ−サプレッサーの塩基配列を決定した結果、dutA、mlcR、rsc12であることが分かった。本研究では、これらの遺伝子のうちmlcRとrsc12について解析した。rsc12遺伝子の形質転換体を水寒天上で発生させたところ、親株より多くの子実体が見られ、mlcRと比較してサプレッサ−としての作用がより強いことが示された。また、子実体の形態を比較したところ、rsc12を導入した形質転換体の子実体はより野生株に近く、柄が長くて胞子のうも大きいものが作られた。一方mlcR形質転換体の子実体の形態は、野生株のそれにはあまり近くなく、サプレッションの程度がやや弱いと考えられる。
drnAという遺伝子はDicer様タンパクをコードしている。STATサプレッサ−として単離されたnon-coding RNAであるdutA mRNAとの関連性を調べるために、drnAノックアウト株作製を試みた。現在、ノックアウトコンストラクトは4つ得られ、そのうち2つのコンストラクトを用いてノックアウト株を作製しているが、遺伝子破壊株は未だ得られていない。