STAT関連遺伝子としてのZincトランスポーター遺伝子の解析
門奈 芽里
STATs(signal transducers and activators of transcription)はインターフェロン等のサイトカインや増殖因子の刺激に応答して活性化される転写因子として同定された。細胞性粘菌Dictyostelium discoideumではこれまでに4種類のSTAT遺伝子(Dd-STATa〜d)が見つかっている。細胞性粘菌は多くの高等生物に見られる遺伝子を保有している。例えばcytokinesis、cell motility、phagocytosis、走化性シグナル伝達など人の病気に密接に関係した多くの現象が見られ、細胞生物学的な研究にも理想的であり、モデル生物として非常に有用である。
Zinc
transporterは細胞における細胞内部の亜鉛の量を調節しているタンパク質である。哺乳類において、Zinc transporterのZIP familyは細胞の外から中へ亜鉛を運ぶことで、細胞内部の亜鉛の正しい量を維持することに中心的な役割を持っている。ZIP transporterの4つのsubfamilyの1つがLIV-1 subfamilyである。LIV-1遺伝子は、エストロゲンで調節された乳癌タンパク質として特定され、エストロゲン陽性の乳癌と局部リンパ節への転移に関連している。Zinc transporter LIV-1はZinc-finger転写因子Snailの細胞質から核への移項を亜鉛依存的に制御しその活性を調節することにより、オーガナイザー細胞に上皮-間葉転換を誘導することが知られている。STAT3はゼブラフィッシュの原腸陥入時にオーガナイザー領域で活性化され、その活性は原腸陥入運動に必須であり、Zinc transporterタンパク質LIV-1 はSTAT3の下流標的因子として同定されている。
本研究では、LIV-1と相同性のあるタンパク質をコードする細胞性粘菌の遺伝子zntAとzntBのクローン化を試み細胞性粘菌のSTATaとの関係を調べた。β-galactosidase染色、in
situ hybridization、RT-PCR法を用いた解析により、zntAの発現は移動体期、 Mexican hat期、Culminant期ではpstAB細胞で見られ、Mexican hat期以前では予定胞子細胞でも見られた。zntBの発現は移動体期以降pstAB細胞で見られた。zntAはMexican hat期より前では弱く予定胞子細胞で発現していて、以降は予定胞子細胞で発現は見られずpstAB細胞の発現が強くなる。これは、RT-PCR法を用いた解析でzntA mRNAサイズが変化する発生15時間目以前と18時間目以降に対応している。このことから、発生15時間目以前に見られる短いサイズのzntA mRNAが予定胞子細胞で発現していると推測される。statA遺伝子破壊株ではzntBの発現は見られなかったが、zntAの発現は見られた。このことからzntBはDd-STATaによって発現が制御されている可能性がある。両遺伝子のより詳細な機能を解析するために、それぞれのノックアウト株を作製し、現在はそれらの詳細な解析を行っている。