プログラム細胞死関連遺伝子bapAとDd-STATaサプレッサ−dicC遺伝子の解析
野村 力
STAT(signal transducer and activator of
transcription)は生体の重要なシグナル伝達系のひとつであるJAK/STAT経路を構成する転写因子で、発生、分化、細胞増殖、免疫応答やプログラム細胞死など多様な生命現象に関与している。細胞性粘菌(Dictyostelium discoideum)は、STATを有する最も下等な真核多細胞生物で、4種類のDd-STAT遺伝子(Dd-STATa~d)が存在する。Dd-STATa遺伝子は、子実体形成に必要な多くの機能を持つと推測されているが、標的遺伝子は数種しか解明されていない。
多細胞生物おいては、細胞に何らかの異常があったときに、そのような細胞を除去するプログラム細胞死というメカニズムを持つ。細胞性粘菌では単細胞が集合して多細胞体を形成し、最終的な子実体を形成する過程で柄細胞のプログラム細胞死を伴う。Dd-STATaは、この過程に必須な転写因子であることが明らかにされている。細胞性粘菌には、他種の生物におけるプログラム細胞死に関与する遺伝子と相同な遺伝子が多数存在し、その中でDd-STATaの標的遺伝子となる可能性のある遺伝子がいくつか同定されている。本研究では、細胞性粘菌のプログラム細胞死過程における、Dd-STATaとの関係性を明らかにするため、DDB0187522遺伝子(以下bapA遺伝子と記す)に着目して解析を行った。bapA遺伝子は、Bap31(B-cell receptor-associated 31-like)と相同性があるタンパク質をコードする。本研究では、bapA::lacZレポーターコンストラクトを作製しAx2株とSTATa
null株に導入した結果、Ax2株のみで発現しSTATa依存性が見られた。また、遺伝子を過剰発現させた結果、発生に遅れが見られた。細胞性粘菌は、caspaseは存在しない。そのため、bapA遺伝子は、発生初期から発現し、caspaseの基質ではなく他の働きがある可能性が示唆された。
DDB0231655遺伝子は、Dd-STATaサプレッサークローンa2002に対応する遺伝子として単離された。DDB0231655遺伝子は、DicA1と相同性があり、DicA1、DicBのアミノ酸配列と比較しdicC遺伝子と命名した。本研究ではdicC遺伝子破壊株の作製を行っているが得られていない。現在、相同組み換え法を用いた遺伝子破壊株の作製と並行してRNAi法を用いたノックダウン株の作製を行っている。