細胞性粘菌expansin様遺伝子の発現制御メカニズムとDd-PIAS遺伝子の機能解析
小笠原 瞬
STAT
(signal transducer and activator of transcription)は生体の重要なシグナル伝達系のひとつであるJAK/STAT経路を構成し、発生・分化、細胞増殖、免疫応答やプログラム細胞死など多様なカ生命現象に関与する重要な転写因子のひとつで、広く生物間に保存されている。細胞性粘菌 Dictyostelium
discoideumはSTATを有する最も下等な真核多細胞生物と考えられており、Dd-STATa~dの4種類存在することが知られている。その中で最も解析が進んでいるDd-STATaは、子実体形成に必須な多くのな機能を持つ遺伝子であると推測されている。しかし、現在Dd-STATaの標的遺伝子は数遺伝子しか解明されていない。
さらなる標的遺伝子の同定のため、Dd-STATaの発現と空間的局在が一致するESTクローンのin
situ hybridization法による解析の結果、expansinと相同性を示す遺伝子のESTクローンSLA128が標的候補遺伝子として発見された。Expansinは植物の細胞壁にみられる形態形成に重要なタンパク質の1つであり、細胞壁のポリサッカライド間の非共有結合を弱めることで細胞壁の弛緩作用を持つ。細胞性粘菌では6つのexpansin様の配列をもつDdExpL1~6
(Dictyostelium discoideum
expansin-like genes 1~6)が既に確認されており、SLA128を7番目のexpansin様遺伝子と考え、DdExpL7と名づけた。本研究では、DdExpL7遺伝子のプロモーター領域ををlacZレポーター遺伝子に繋げ、プロモーター領域を段階的に削ることで欠損変異プロモーターコンストラクトを作製した。このコンストラクトの発現パターンを解析した結果、DdExpL7遺伝子の発現には翻訳開始点上流808 bp ~ 718 bpの領域が必要であることが解明された。さらに、半定量的RT-PCR法によって、DdExpL7遺伝子の発現量が子実体形成が開始する18時間目に最大となることが確認された。
哺乳類の細胞のJAK/STAT経路の負の制御因子としてSHP (SH2-containing phosphatases)、SOCS (suppressor of cytokine
signaling)、PIAS (protein inhibitor
of activated STAT)の3つの主要な因子が発見されている。PIASはその名の通りSTATを抑制する因子として同定されたが、現在は哺乳類でSmadやp53など60以上のタンパク質を負または正に制御する因子として注目されている。細胞性粘菌では今までDd-STATを抑制するこのような因子は発見されていない。しかしながら、ヒトのPIASの機能ドメインと相同なアミノ酸配列を多くもつPIAS様の因子が存在することが報告されている。本研究では、このDd-PIASをタンパク質レベルで解析するために、GFPまたはCFP融合コンストラクトを作製した。今後は、このコンストラクトを用いてDd-PIASの機能を解明していく予定である。