プログラム細胞死関連遺伝子Dd-ELMO5の解析

岡本 美雪

 

細胞性粘菌 Dictyostelium discoideumは単細胞期と多細胞期を持ち、さらに多細胞の集合体は柄と胞子に分化するという特徴的な生活環を持つ。栄養が豊富な状態で単細胞アメーバとして存在する細胞性粘菌は、飢餓状態になるとパルス状のcAMPを分泌して集合体となる。この集合体は最終的に柄と胞子から形成される子実体となるまで分化を続ける。この過程は発生、分化の基本的性質を備えたものであり、細胞性粘菌はそれらの分子メカニズムを理解するためのモデル生物として有用である。細胞性粘菌におけるSTATであるDd-STATaは、移動体期にcAMPシグナルによって活性化され、tipの分化誘導、早期の柄細胞分化の抑制を行う。このようにDd-STATa遺伝子が細胞性粘菌の発生に持つ役割は重要であるが、この遺伝子が関わる伝達経路はJAKのような調節因子、標的因子、他のシグナル経路とのクロストークも含めてまだ明らかになっているものは多くない。

細胞性粘菌は、子実体を形成する過程で、柄細胞のプログラム細胞死を伴う。この過程において、Dd-STATaは重要な転写因子として機能することがわかっており、Dd-STATaの標的候補遺伝子がいくつか同定されている。本研究では、細胞性粘菌のプログラム細胞死における、Dd-STATaとの関係性を明らかにするため、DDB0205964遺伝子に着目して機能解析を行った。ELMO/CED-12 familyは、発生においてみられるアポトーシスに必要な細胞の食作用における細胞骨格の再編成と細胞運動に関与している。哺乳類のタンパク質はELMO/CED-12ドメインを有し、ホモロジー検索を行ったところ、細胞性粘菌のDDB0205964遺伝子がコードするタンパク質もELMO/CED-12との高い相同を示した。ELMO/CED-12との高い相同性からDDB0205964遺伝子をDd-ELMO5遺伝子と命名した。

 本研究ではDd-ELMO5遺伝子のβ-galactosidase染色法、過剰発現株及びノックダウン株の形態観察を行った。β-galactosidase染色法では、tipの時期から発現が見られ、culminant期まではpstAOpstAB細胞で発現が見られた。Dd-STATa null株においては、発現の低下が観察され、Dd-ELMO5遺伝子の発現がDd-STATaの制御を受ける可能性があることが示唆された。Dd-ELMO5遺伝子の過剰発現株の形態観察では、野生株との違いは見られなかったが、ノックダウン株では発生のわずかな遅れが見られたことから、Dd-ELMO5遺伝子は発生における細胞運動に関与し、ノックダウンすることによって細胞運動を低下させ、発生を遅らせている可能性が示唆された。