STATサプレッサーとしての塩素イオンチャンネル遺伝子ファミリーの解析とマイクロアレイデータを用いたSTAT標的遺伝子の探索
櫻井
あや
STAT(signal
transducer and activator of transcription)タンパク質は、細胞内シグナル伝達経路であるJAK/STAT経路を構成する転写調節因子であり、哺乳類ではSTAT1~6(STAT5はSTAT5aとSTAT5bの2つ)の7種類が見つかっている。細胞性粘菌ではDd-STATa~dの4種類のタンパク質が見つかっているが、そのうちのDd-STATaは細胞性粘菌の子実体形成に必須で、これによって調節を受けている様々な遺伝子群の働きで子実体が形成されると考えられている。本研究ではDd-STATaのマルチコピーサプレッサー遺伝子の一つとして単離されている塩素イオンチャンネルclcB遺伝子のファミリー遺伝子について解析した。細胞性粘菌には6つの塩素イオンチャンネル遺伝子が発見されているが、今回扱った遺伝子は既に名称が与えられているclcA遺伝子と系統樹が近いことから新たにclcA1、 clcA2という名前を付けた。またclcBという遺伝子は既に解析されているので、3つ目の遺伝子はclcCとした。STATa遺伝子破壊株由来のSTATa::ORF+株にDd-STATa遺伝子の5’末端側を欠損させたコンストラクトを導入して得たSTATa(core)::ORF+株は、子実体を形成率が低く、野生株のよりとても小さい子実体を形成する、Dd-STATa部分破壊株である。このSTATa(core)::ORF+株にclc遺伝子ファミリーのclcA1遺伝子の CBSドメインに対応する領域を過剰発現する株を得た。この株を寒天上で発生させ、子実体の形成率を確認したところ子実体形成はほとんど見られず、ほぼ移動体のまま発生が停止した。このことより、clcA1遺伝子のCBSドメインコード領域は clcB 遺伝子とは異なりサプレッサーとしては機能しないことが判明した。clcA2、clcC については過剰発現コンストラクトの作成ができなかった。
また、本研究ではマイクロアレイ法によって同定された細胞性粘菌のSTATa遺伝子破壊株において転写レベルの減少が見られた遺伝子群について、mRNA量の変動が正しいものかどうかを半定量的RT-PCR法を用いて調べた。その結果はマイクロアレイの結果をほぼ反映していた。本研究では全部で29種類のDd-STATa遺伝子破壊株において、発現が抑制される遺伝子が明らかになった。それぞれの遺伝子については、今後in situ ハイブリダイゼーションによる組織レベルでの発現結果と比較することにより、STATaの作用メカニズムを明らかにすることに寄与すると期待される。