日本語要旨

 

細胞性粘菌を用いた転写因子Dd-STATaサプレッサー遺伝子の機能解析

 

分子発生生物学研究室 島田 奈央

 

 STAT (signal transducer and activator of transcription)は、細胞内シグナル伝達経路の一つであるJAK/STAT経路を構成する転写因子で、真核多細胞生物に広く保存され、細胞分化、細胞死、増殖、形態形成等に関与している。細胞性粘菌には4種類のSTATホモログが存在し、Dd-STATaは子実体形成に必須である。Dd-STATa遺伝子破壊株に、N末端欠失Dd-STATa(アミノ酸残基237以降に相当)にGFP遺伝子を融合させたDNA断片(GFP::STATa(core))とレプリカーゼ遺伝子を導入したGFP::STATa(core)::ORF+株は、寒天培地上で子実体を形成しない。この株を親株とし、移動体期のcDNAライブラリーを導入し過剰発現させ、子実体形成が相補された表現型をDd-STATaサプレッサーとし、約450,000クローンのスクリーニングを行った。その結果、18クローンが単離され、本研究ではこのうち3遺伝子に着目し機能解析を行った。

 第一の遺伝子dutAnon-coding RNAであることが知られており、野生株においてDd-STATaが活性化されているprestalk A細胞で発現がみられた。単離された4つのサプレッサークローンはdutA由来で、0114クローンはdutA遺伝子の751 bpより下流の領域を含み特に強い子実体形成能を示した0114株ではDd-STATaの標的候補遺伝子の発現回復も見られた。さらに、0114株ではリン酸化GFP::STATa(core)量が親株よりも4.5倍上昇した。以上の結果は、dutADd-STATaの上流で機能しそのリン酸化を制御していることを示唆している。

 第二の遺伝子はNK20で、細胞性粘菌の転写因子GBF(G-box binding factor)依存的に発現することが知られており、prestalkA細胞で発現していた。細胞性粘菌にはNK20と相同な遺伝子が40以上存在し多重ファミリーを形成し、cAMP依存的に発現する2C,7Eも含まれる。NK20は配列上低分子量でセリンとグリシンに非常に富むタンパク質をコード可能で、実際にタンパク質へ翻訳されることが確認された。しかし、フレームシフト変異を挿入したNK20や、予定柄細胞で発現する他のファミリー遺伝子を過剰発現してもサプレッションが起こることから、サプレッションには翻訳は不要で、細胞組織特異的発現が必要であると考えられた。NK20株ではリン酸化GFP::STATa(core)量やDd-STATa標的候補遺伝子の発現量は一定であり、NK20Dd-STATaを直接介さないで子実体形成に機能していると考えられる。

 第三の遺伝子はsunBであり、サプレッサークローンa1403SunBタンパク質のN末端261アミノ酸に相当する領域を含んでいた。この部分にGFPを結合させたものやSunBの全長を過剰発現させてもサプレッションは起きなかったが、全長にGFPを融合させたものはサプレッションを起こした。以上よりa1403は優勢抑制変異として内在SunBの機能を阻害していると推測された。SunBタンパク質は、移動体期後半では予定柄細胞で消失し予定胞子細胞のみで局在がみられた。またsunBノックダウン株は細胞質分裂の異常とmultiple tipsという表現型を示し、増殖と細胞分化の両方への関与が示唆された。a1403株ではSTATa標的候補遺伝子の一部の発現回復がみられた。一方、GFP::STATa(core)::ORF+株ではSunBタンパク質が予定柄細胞でもみられることからDd-STATaがその分解に必要である可能性が示唆された。