細胞性粘菌におけるSTATa標的遺伝子の検索

島田 奈央

　STATは細胞内シグナル伝達経路の一種であるJAK/STAT経路を構成する転写因子である。細胞性粘菌における4種類のSTATのうちDd-STATaは多細胞体の予定柄細胞の分化を誘導する転写因子として知られている。本研究では、STATa破壊株でcDNAライブラリーを過剰発現させることによりマルチコピーサプレッサーを検索する方法と、STATa破壊株におけるmRNAの空間的局在の変化をin situ hybridizationにより調べる方法との2通りの戦略を用いてSTATaの標的遺伝子を検索した。

　cDNAライブラリーを利用したマルチコピーサプレッサー遺伝子の検索では、レプリカーゼORF遺伝子をSTATa破壊株に導入し、実験に使用するSTATa-::ORF+株の作成に成功した。現在、この株にSTATa破壊株由来のmRNAから調整したcDNAライブラリーを形質転換し、サプレッサーの単離を試みている。In situ hybridizationでは、野生株とSTATa破壊株を同時に用いて予定柄細胞特異的に発現している54のcDNAクローンについて発現の差を比較しパターン別に分類した。そのうち13クローンにおいてSTATa破壊株におけるmRNAの発現の消失、低下が見られた。特に、prestalk AB細胞において発現が見られるクローン全てにおいてSTATa破壊株では発現の消失がみられた。32クローンは発現パターンに変化がみられなかった。prestalk AOに発現が見られるもののほとんどがこのタイプであった。8クローンでは野生型の移動体期以降においてのみ発現が確認されたため、発生が移動体以降に進まないSTATa破壊株との比較ができなかった。発現パターンに変化の見られた遺伝子群が実際にSTATaの標的になっている遺伝子かどうかはプロモーター解析等を行わなければ断定出来ないが、STATaのシグナル伝達経路に関わっている遺伝子である可能性が高い。また、分類の過程でprestalk A、AB、O細胞の領域別にパターン分けできないものも多数発見された。これはこの領域の他に、さらに細かい予定柄細胞のサブタイプが存在している可能性を示唆している。