細胞性粘菌セロビオヒドロラーゼ遺伝子cbhAとCbhAタンパク質の解析

新藤 雄樹

　細胞性粘菌Dictyostelium discoideum（キイロタマホコリカビ）は、周囲に栄養が豊富にある状態では単細胞アメーバとして増殖し続けるが、飢餓状態になると特定の細胞がcAMPをパルス状に分泌し始め、それに対する走化性により集合して多細胞体を構築する。細胞性粘菌は飢餓処理により分化を容易に誘導でき、半数体で生活環を繰り返すため変異株の表現型が出現しやすいなどの理由からモデル生物として用いられている。

細胞性粘菌はセルロース合成酵素を有しており、セルロースの合成は多細胞体の正常な形態形成に必須であることが報告されている。また、細胞性粘菌にはセルロース分解酵素（セルラーゼ）が多数存在しており、セルロースに作用するものであることからセルラーゼの機能を調べればセルロースによる形態形成メカニズムの一端が明らかになると期待される。そこで本研究では、セルラーゼ遺伝子のひとつであるセロビオヒドロラーゼ Iをコードすると考えられるcbhA遺伝子の機能解析を行った。

　本研究で新規に得られたcbhA遺伝子破壊株[cbhA^-(Bs^R)]を発生させたところ、発生開始後6時間目ではまだ細胞が集合せず、7.5時間目に野生株より約1.5時間遅れてようやく集合のストリームを形成した。その後、野生株より約4時間遅れて17時間目にtipを形成し、28時間目に柄の短い子実体を形成した。また、救済株を作製して発生させると、集合期から子実体形成まで野生株とほぼ同様な形態を示し、表現型が救済された。このことより、cbhA遺伝子破壊株で見られた表現型はcbhA遺伝子をノックアウトしたことのみに起因することが証明された。これらの結果より、cbhA遺伝子は発生の初期における多細胞体形成と柄細胞の形成に重要な役割を担っている可能性が示された。今後は、cbhA遺伝子破壊株における各種マーカー遺伝子のlacZレポーター遺伝子発現株を作製し、cbhA遺伝子の柄細胞形成における役割を解析する必要がある。

また、本研究ではCbhAタンパク質を大腸菌中で大量に発現させる実験を行った。ウエスタンブロット解析の結果、予想されるCbhA融合タンパク質の分子量（約49.5 kDa）とは異なる位置（約60 kDa）にバンドが見られた。またSDS-PAGEを行ったゲルをセロビオヒドロラーゼ基質に浸して活性の検出を試みたが、今のところ成功していない。このことより、大腸菌中に目的とするCbhAタンパク質が発現していない可能性があり、その場合もう一度新たにコンストラクトを作り直す必要がある。あるいは、活性測定時の温度やpHが最適ではない可能性、SDSの界面活性剤の影響によりタンパク質が失活してしまった可能性も考えられ、活性を測る条件を詳細に検討する必要があると考えられる。