細胞性粘菌におけるチロシンキナーゼの機能解析及び亜鉛輸送体ファミリー遺伝子の同定と解析

 

砂永 伸也

 

 細胞性粘菌 Dictyostelium discoideumは単細胞期と多細胞期を持ち、さらに多細胞の集合体は柄と胞子に分化するという特徴的な生活環を持つ。栄養が豊富な状態で単細胞アメーバとして存在していた細胞性粘菌は、飢餓状態になるとパルス状のcAMPを分泌し、それに応答して集合体となる。この集合体は最終的に柄と胞子から形成される子実体となるまで分化を続ける。この過程は発生、分化の基本的性質を備えたものであり、細胞性粘菌はそれらの分子メカニズムを理解するためのモデル生物として有用である。

細胞性粘菌におけるSTAT (signal transducer and activator of transcription) であるDd-STATaは、多細胞体期にcAMPシグナルによって活性化され、tip期の分化誘導、柄細胞分化の抑制を行う。このようにDd-STATa遺伝子が細胞性粘菌の発生に重要な役割を持つことは明確であるが、この遺伝子が関わる伝達経路はJAKのような調節因子、標的遺伝子、他のシグナル経路とのクロストークも含めてまだあまり明らかとなってはいない。そこで本研究では、細胞性粘菌におけるチロシンキナーゼであるShk (SH2 domain containing kinase) に着目し、STATを制御するJAKである可能性も視野に入れた機能解析を行った。shkB遺伝子は遺伝子破壊の影響、β-galactosidase染色の2つの視点から解析した。β-galactosidase染色によってshkB遺伝子は集合期以降に発現していることが分かった。遺伝子破壊株の子実体の形態に影響は見られなかったが、親株と比較して発生が約1.5~2時間遅れ、ストリーミングの期間が長かった。従って、shkB遺伝子は集合期からストリーミング期の間に働く遺伝子であると考えられる。

 近年ゼブラフィッシュにおいて亜鉛輸送遺伝子LIV-1STAT3の制御を受けることが示された。そこで本研究では、細胞性粘菌における亜鉛輸送体遺伝子がDd-STATaの制御を受けると仮定してそれらの関係を調べた。細胞性粘菌における亜鉛輸送に関連する遺伝子群をBLAST検索で同定し、分子系統樹を作成した。それらの遺伝子とDd-STATaとの関係をin situ hybridizationで調べたところ亜鉛輸送体LIV-1と相同性を示す遺伝子DDB0186791が有意な結果を示した。従ってDDB0186791Dd-STATaによって転写制御を受ける可能性があると考えられる。