STATaサプレッサーとしての塩素イオンチャンネル遺伝子の解析
鈴木 礼子
細胞性粘菌Dictyostelium
discoideumのアメーバは、飢餓状態になると集合して多細胞体を形成し、tip、first
finger、slug(移動体)、Mexican
hat、culminant、fruiting
body(子実体)と発生がすすむ。slugの細胞は予定胞子細胞presporeと予定柄細胞prestalkに分類でき、prestalk細胞はさらにecmAとecmB遺伝子プロモーターの発現パターンによってprestalkA(pstA)、prestalkAB(pstAB)、prestalkO(pstO)の領域に分類できる。
STAT(signal
transducer and activator of transcription)タンパク質は、細胞内シグナル伝達経路であるJAK/STAT経路を構成する転写調節因子であり、哺乳類ではSTAT1~6(STAT5はSTAT5aとSTAT5bの2つ)の7種類が見つかっている。細胞性粘菌ではDd-STATa~dの4種類が見つかっており、そのうちDd-STATaは細胞性粘菌の子実体形成に必須であり、それによって調節をうける様々な遺伝子群の働きで子実体が形成されると考えられている。
本研究で解析を進めたnk23遺伝子はDd-STATaのマルチコピーサプレッサー遺伝子として発見されたものである。statA-::ORF+株にDd-STATaの5’末端側を欠損させた遺伝子を形質転換して得たaL::ORF+株は子実体を形成しにくく、形成された数少ない子実体も野生株のものと比べるととても小さいDd-STATa部分破壊株と言える。このaL::ORF+株にnk23遺伝子を形質転換すると、子実体を形成する割合が増え、形成した子実体は大きくなった。
nk23遺伝子の配列を決定したところ、哺乳類の塩素イオン(Cl-)チャンネル(Clc)の1つであるClc2と相同性があることが分かった。細胞性粘菌には3つのClcが発見されており、そのうちの1つにはClcAという名前がついているので、nk23遺伝子のことをclcBと呼ぶことにした。
Ax2株にclcBプロモーターとlacZ遺伝子を融合したレポーター遺伝子を導入しβ-ガラクトシダーゼ染色を行った結果、nk23遺伝子の分布は、pstOの分布と重なっていた。また、clcB遺伝子破壊株を作製したところ、発生形態は、野生株にくらべ、子実体の柄がくねくねと曲がり、時間がたつと胞子の重みに耐え切れずに崩れてしまった。clcB遺伝子破壊株では柄の構造に異常があると思われる。細胞性粘菌における子実体の柄はセルロースによってその構造が成されている。よってカルコフロー染色によるセルロースの構造観察が有効だと思われる。また、今後はaL::ORF株における遺伝子破壊株の作成およびその発生形態観察も必要であろう。