細胞性粘菌セルラーゼ遺伝子celCSTAT制御因子Dd-PIASの機能解析

 

谷内 彩子

 

 STAT (signal transducer and acrivator of transcription)は細胞内シグナル伝達経路の一つであるJAK/STAT経路を構成し、多様な生命現象に関与する重要な転写因子であり、広く多細胞生物間保存されている。細胞性粘菌はSTATを有する最も下等な真核多細胞生物と考えられており、STATa~d4種類のSTATが存在することが知られている。

今回研究に用いたDDB_G0286025遺伝子は、以前に行われたin situ hybridisation法による解析によってDd-STATa依存的な発現を示すDd-STATa標的候補遺伝子として同定された。細胞性粘菌は子実体形成過程においてセルロースからなる細胞壁を形成し、セルロースの合成は正常な形態形成に必須であることが知られている。DDB_G0286025遺伝子の産物はセルラーゼであるエンドグルカナーゼの一種であると推測され、形態形成に関与している可能性が考えられた。そこで本研究ではDDB_G0286025遺伝子をcelC遺伝子と名付け、発現制御メカニズムやCelCタンパク質を解析することで、形態形成におけるセルロースやセルラーゼの役割を解明することを目的とした。lacZレポーター遺伝子株の解析において、celC遺伝子はtip~移動体までpstAO細胞で発現しており、culminantではpstA細胞、柄細胞及び基盤(basal disc)で発現していた。また、半定量的RT-PCR法の結果において発生開始後15時間目から発現量の増加がみられ、21時間目でピークを示したこと等からcelC遺伝子はculminant形成に関与する遺伝子である可能性が示唆された。また、CMC (carboxymethyl cellulose)寒天培地を用いたセルラーゼ活性の検出では、野生株に比べてcelC遺伝子過剰発現株でよりCMCの分解がみられた。今後は大腸菌等でタンパク質を大量に発現させ、CelCセルラーゼ活性の生化的性質の詳細を調べる必要性があると考えられる。

哺乳類の細胞のJAK/STAT経路の負の転写制御因子の一つとしてPIASprotein inhibitor of activation STAT)が知られている。細胞性粘菌にもPIAS様の因子(Dd-PIAS)が存在することが報告されている。本研究では、定量的リアルタイムPCR法を用いることで、STAT標的候補遺伝子の発現量の変化を調べ、Dd-PIASDd-STATa~cとの相互作用について解析した。その結果、Dd-STATaによって発現が正に制御されている遺伝子であるecmFaslAexpL7の発現量はDd-PIAS遺伝子破壊株で増加し、逆にDd-PIAS遺伝子過剰発現株で低下した。また、GFP融合Dd-PIASタンパク質はDd-STATaが活性化されているpstA細胞以外の領域に局在していた。これらの事実から、Dd-PIASDd-STATaを負に制御している可能性が示唆された。