細胞性粘菌におけるセルラーゼ関連遺伝子glcAとgluAの解析
山﨑 由里惠
細胞性粘菌はセルロースが多細胞体の形態形成において重要な働きをしていると考えられている。またセルラーゼを多数有しており、多細胞体でセルロースが構築される時期と同時期に発現しているものがある。そのため本研究では、エンドグルカナーゼをコードしているglcA遺伝子、β-グルコシダーゼをコードしているgluA遺伝子の機能解析を行い、形態形成における作用メカニズムを解明することを目的とした。またセルラーゼは、バイオエタノールの代替え原料として最も注目されている。そのためセルラーゼ遺伝子過剰発現株を作製してセルロース分解能を検証し、バイオエタノール産生系における粘菌類利用の可能性について検討することも目的とした。それに加えgluA遺伝子は、マイクロアレイ法によってSTATa標的候補遺伝子として同定されている。
STAT(Signal Transducers and Activators of Transcription)は、サイトカインや増殖因子に応答する転写因子で、JAK/STAT経路の最後に位置する。STATは哺乳類だけでなく真核多細胞生物間で広く保存され、発生、分化、細胞増殖、アポトーシス、造血、免疫応答など重要な生命現象を司っていることが知られている。細胞性粘菌のSTAT遺伝子の1つであるDd-STATa遺伝子破壊株では多細胞体になるまでが遅く、発生が移動体で止まり子実体の形成が見られない。このことより、Dd-STATaによって調節を受ける標的遺伝子は子実体形成に需要であると推測されている。そこでgluA遺伝子の機能解析に関しては、Dd-STATaとの関係を解明することも目的とした。
glcA遺伝子は半定量RT-PCR法の結果から21時間目に発現量が最大になり、glcA遺伝子破壊株のculminant期では柄が短い多細胞体を形成した。GlcA-GFP融合タンパク質発現株により、予定柄細胞領域にタンパク質が局在していることがわかった。これによりglcA遺伝子は柄細胞の形成に重要な役割を担っている可能性を示唆した。この仮説明らかにするにはglcA遺伝子破壊株の救済実験をする必要がある。セルロース結合能の検定の結果では、GlcAタンパク質はセルロースに結合し、また細胞外にも分泌されていた。glcA遺伝子過剰発現株は野生株よりもエンドグルカナーゼの基質であるCMCを分解していることがわかった。今後はGlcAタンパク質を精製し、セルラーゼ活性をより詳細に測定する実験をしなくてはならない。
gluA遺伝子は、半定量RT-PCR法の結果からAx2株では発生の初期と後期に発現が見られ、21時間目の発現量が最大であった。Dd-STATa遺伝子破壊株で12時間目に若干発現が見られるが、それ以降の発現は見られず、Dd-STATa標的遺伝子であることを支持した。このことから、後期の遺伝子発現にDd-STATaが関与していることが示唆された。gluA遺伝子破壊株では表現型に変化がある株とない株が得られた。この結果を解明するにはgluA遺伝子破壊株の救済実験をする必要性がある。今後の課題として、多細胞体でのGluAタンパク質の局在を調べるためにGlcA-GFP融合タンパク質発現株を作製する必要があり、またセルラーゼとして機能しているか解明しなくてはならない。