細胞性粘菌の転写因子STATaとSTATcの生体内相互作用に関する研究
頼 加奈子
STAT (signal transducers and activators
of transcription)とはサイトカインや増殖因子等によって活性化される一連の転写因子である。細胞性粘菌ではSTATaからSTATdまでの4つのSTAT遺伝子が同定されており、その中でもSTATa及びSTATcは細胞性粘菌の発生過程においてそれぞれ重要な働きをしている転写因子であることがわかっている。本研究ではSTATa遺伝子とSTATc遺伝子の両方を破壊したSTATa-/c-株に対して形態観察、β-galactosidase染色、in
situ hybridization、Northern hybridizationを行い、その特性を調べ、生体内において両転写因子の相互作用が存在し得るという可能性を示した。
発生の形態を観察したところ、STATa-/c-株は STATa-株と同様にあまり長い移動体にはならず、子実体も形成しないことが分かった。また、発生を行わせる際の、細胞密度の影響を調べた結果、STATa-/c-株の1つの大きな特性として密度の影響を受けやすい株であるということが分かった。発生の形態,特性を調べた結果、STATa-/c-株は STATa-株 とSTATc-株の性質を併せ持っている株であることが示唆された。β-galactosidase染色において、予定柄細胞の後部に発現が見られるecmO::lacZがSTATa-/c-株では野生株やSTATa-株とは異なった染色パターンを示した。このことから、STATa-/c-株は形態形成運動が他の株とは異なっているということが推測される。また、予定柄細胞の先端に発現が見られるcudA(pst)::lacZは、STATa-株 ではその発現がなくなるのに対し、STATa-/c-株では発現が見られることから、STATc がcudA(pst)::lacZ
に関してはSTATaのサプレッサーになっている可能性が考えられる。更に、SLF308というプローブを用いて行ったIn situ
hybridizationでもSTATa-/c-株で発現の復帰が見られ、やはりSTATc がSLF308に関してはSTATaのサプレッサーになっている可能性が示唆された。また、他のリポーターやプローブを用いて行ったβ-galactosidase染色、in
situ hybridization、Northern hybridizationの結果より、STATaタンパクとSTATcタンパクは生体内においてそれぞれが単独で、もしくは相互作用をしてアクチベーター及びリプレッサーとして機能していると考えられる。