Bhc-diazoの合成法

 

6-Bromo-7-hydroxy-4-methylcoumarin (1)

50 mLのナス型フラスコに、スピナー、Dean-Stark管(容量5 mLぐらい)、還流冷却器(玉付き)および塩化カルシウム管を取り付けた。1.9580 g (10.359 mmol)の4-bromoresorcinol、25 mLのトルエン、2 mL (15.7 mmol)のethyl acetoacetateおよび200.8 mg (1.06 mmol)のp-トルエンスルホン酸1水和物を順次加えた。この溶液を撹拌しながら17時間加熱還流した。反応の進行に伴って薄赤色の固体(生成物)が析出してくる。反応混合物を室温まで冷却後、水25 mLを加え、0°Cで30 min撹拌した。析出した生成物を吸引ろ取し、水で洗浄後デシケーター中で減圧乾燥すると、2.3697 g (9.2908 mmol, 89.7%)の目的物が薄赤色固体として得られた。 この反応はもっとスケールアップ可能。
1H NMR (CDCl3+1%CD3OD) d 7.73 (1H, s) 6.88 (1H,s) 6.13 (1H, s) 2.40 (3H, s)
13C NMR (DMSO-d6) d 159.8, 157.2, 153.6, 152.8, 129.1, 113.4, 111.2, 105.9, 103.0, 18.1
IR (neat) 3300-3000, 1693, 1674, 1600, 1387, 1364, 1270, 1234, 1224, 1161, 1078, 843
ESI-MS m/z 252.9 (C10H779BrO3-H+), 254.9 (C10H781BrO3-H+).

7-Acetoxy-6-bromo-4-methylcoumarin (2)

50 mLのナス型フラスコに、スピナー、還流冷却器(玉付き)および塩化カルシウム管を取り付けた。1.0118 g (3.967 mmol)の基質に10 mLの無水酢酸を加え、撹拌しながら100。Cの油浴で4時間加熱した。反応の進行に伴って基質が溶解し、その後薄紫色の固体(生成物)が析出してくる。反応混合物を室温まで冷却後、生じた薄紫色の固体を吸引ろ取し、デシケーター中で減圧乾燥すると、919.4 mgの目的物が薄紫色固体として得られた。ろ液を減圧濃縮するとさらに225.9 mgの目的物が得られた。総収量は1.1453 g (3.855 mmol, 97.2%)であった。 この反応もスケールアップ可能。ろ取した固体もろ液を濃縮して得られたものもNMRでは区別付かない。よって、ろ過の操作をやめて濃縮して溶媒を飛ばしてもよい。ただし、この反応で析出した固体をろ取したもののみを使った方が、次の反応がうまくいくことが多い。殆どの場合、どちらを使ってもうまくいくので、強いて言えば、と言う程度。
1H NMR d 7.82 (1H, s) 7.16 (1H, s) 6.30 (1H,s) 2.42 (3H, s) 2.40 (3H, s)
13C NMR d 167.8, 159.7, 153.0, 150.8, 150.3, 128.6, 119.4, 115.4, 112.6, 11.6, 20.7, 18.6
IR (neat) 1749, 1712, 1395, 1385, 1364, 1201, 1145, 1042, 917, 894, 853.

7-Acetoxy-6-bromo-4-formylcoumarin (3)

100 mLのナス型フラスコに、スピナー、還流冷却器(玉付き)、3方コックおよびアルゴン風船を取り付ける。1.8939 g (6.3744 mmol)の基質を入れてアルゴン置換する。これに60 mLのクロロベンゼンを加えて120。Cぐらいで撹拌しながら基質を溶かす。この溶液に、あらかじめ乳ばちでよくすりつぶした2酸化セレンの微粉末を855 mg (7.7 mmol)加え、145-150。Cの油浴で激しく撹拌しながら還流する。常に2酸化セレンが撹拌されるようにスピナーの位 置、回転速度等を調節する。2酸化セレンはほとんど溶けないし、重いので、フラスコの壁にリング状に付いてしまって、スピナー周りには何もないという状態になりやすい。こうなると反応の進行が極めて遅くなるので、ときどきフラスコをゆするか軽く叩いて、壁面 の2酸化セレンを落とす。反応が進行するにつれて黒色の金属セレンが析出してくる。丸一日ぐらい還流していると、2酸化セレンの白い表面 が黒色のセレンで覆われてしまう。こうなると反応が進行しないので、油浴を下げて沸騰が治まってから、スパチュラで壁面 にこびり付いた黒色の固体(セレンと2酸化セレン)を丁寧にかき落とす。TLCで反応の進行をチェックしつつ、壁面 の固体を揺すり落としたりかき落としたりしながら、5日間還流を続ける。この時点でも原料のスポットが多少残っているが、収率は90%近くになっているはずなので、反応を止める。もちろん、時間との兼ね合いで判断する。 反応混合物を、熱いままでひだ付きろ紙を通してろ過し、黒色のセレンと未反応の2酸化セレンをろ別 する。フラスコ内およびろ紙上の固体はトルエン(常温でよい)で洗う。洗液もろ液と一緒にナスフラスコに集め、減圧濃縮すると濃黄〜茶褐色の固体の粗生成物が得られる。これをNMRで確認すると、原料のピークはほとんど認められない。 この粗生成物にトルエン(10-15 mL)を加えて加熱し、再結晶(もどき)を行う。このぐらいの量 のトルエンでは固体は全部溶けないが、ドライヤー等で加熱してできるだけ溶解する(トルエンの量 は増やさなくてよい)。栓をして(私は最近はデュラシールという耐溶媒性のラップのようなものを使っています)、2、3時間静置すると結晶が析出するので、吸引ろ取する。結晶を少量 のトルエンで洗ってからデシケーター中で乾燥すると、目的物が1.5588 g 得られる。ろ液を濃縮後同様の操作をすることで、第2晶として181.3 mg、第3晶として141.3 mgの目的物がさらに得られる。結局、全収量は1.7401 g (5.5936 mmol, 87.8%)になる。
1H NMR d 10.01 (1H, s) 8.93 (1H, s) 7.23 (1H,s) 6.90 (1H, s) 2.41 (3H, s).
13C NMR d 190.8, 167.7, 159.2, 153.9, 151.1, 142.1, 130.6, 126.4, 113.8, 113.0, 112.6, 20.8.
IR (neat) 3112, 3070, 1764, 1741, 1710, 1406, 1387, 1368, 1189, 1143, 1028, 915, 890.2, 881.6, 859.2, 731.1.
( 2酸化セレンは、本来無色(従って白色結晶)であるが、空気酸化されるとピンク〜赤色になる。こうなると反応効率は落ちる。これまで、和光純薬以外にもナカライテスクのものとAldrichのものを使ったが、買ったときからうっすらと赤いものがあった。それは、使わないようにしている。乳ばちですったものは、デシケータ中で保存しているが2週間ぐらいでピンク色になる。毎回使う分だけすりつぶして使い切るのがいいであろう。すりつぶすときは、乳ばちと乳棒ごとビニール袋に入れて口を輪ゴムでとめ、袋の上からすりつぶすとよい。簡易型ではあるが、空気酸化と吸湿を抑えられる。吸う危険性も減るし。昇華して精製することができるらしいが、私はやったことない。毒だし。 反応後のセレンは、出来るだけかき落としてからアルミホイルに包んで不燃物として処理している。ガラス器具(スリとか)やスピナーにこびり付いたものは少量 の王水で溶かして洗浄している。 )

7-Acetoxy-6-bromo-4-formylcoumarin p-tosylhydrazone (4)

30 mLのナス型フラスコに、スピナー、還流冷却器(玉付き)および塩化カルシウム管を取り付けた。1.5588 g (5.011 mmol)の基質、10 mLのエタノール(99.5%のもの。和光の脱水エタノール)を順次加えた。この懸濁液にトシルヒドラジド985 mg (5.29 mmol)を加え、40。Cで48時間撹拌した。室温まで冷却後、生じた沈澱を吸引ろ取し、フラスコと沈澱は少量 のエタノールで洗浄した。得られた薄橙色の沈澱をデシケーター中で減圧乾燥すると、1.6298 g (3.400 mmol, 68%)の目的物が得られた。生成物はエタノールにわずかに溶解するので、洗液の量 が多すぎると収量が下がる。ろ液からさらに得ることも可能であろうが、私はやったことない。ここの収率は75%程度まではいく。
1H NMR d (DMSO-d6) 8.93 (1H, s) 7.98 (1H, s) 7.82 (2H, d, J=7.6 Hz) 7.51 (1H, s) 7.5 (1H, s) 7.47 (2H, d, J=7.6 Hz) 6.77 (1H, s) 2.45 (3H, s) 2.38 (3H, s)
13C NMR d (DMSO-d6) 167.9, 159.1, 153.4, 149.8, 144.2, 143.8, 141.9, 135.5, 130.7, 127.3, 119.3, 115.4, 112.8, 111.0, 21.1, 20.5
IR (neat) 3239, 1767, 1709, 1603, 1401, 1365, 1268, 1186, 1169, 1152, 1086, 1027, 928, 918, 883845, 819
ESI-MS m/z 500.90 (C19H1579BrN2O6S+Na+), 502.95 (C19H1581BrN2O6S+Na+).

6-Bromo-7-hydroxy-4-diazomethylcoumarin (5) Bhc-diazo

20 mLのナス型フラスコに、スピナーおよび塩化カルシウム管を取り付けた。1.6298 g (3.400 mmol)の基質、7 mLのメタノール(和光の特級)を順次加えた。この懸濁液を撹拌しながら、トリエチルアミン948 mL (6.8 mmol)をゆっくり滴下し(1-2 minぐらいかけて)、さらに室温で48時間撹拌した。トリエチルアミンを滴下した瞬間に、その場所が赤かっ色になりジアゾの生成が確認できるはずである。滴下を終える頃には、一度溶液に近い状態になるが、すぐに新たな沈澱が析出し始めた。撹拌を続けると濃黄色の沈澱がクリーム状に生成した。生じた沈澱を吸引ろ取し、フラスコと沈澱は少量 のメタノールで洗浄した。得られた薄黄〜灰白色の沈澱をデシケーター中で減圧乾燥すると、538 mgの目的物が得られた。生成物はメタノールに溶解するので、洗液の量が多すぎると収量 が下がる。吸引ろ過している最中に、ろ液にも黄色の沈澱が生じるので、これをそのまま(濃縮せずにという意味)吸引ろ過して沈澱を集めると、さらに213.1 mgの目的物が得られた。全収量は751.1 mg (2.672 mmol, 78.6%)となった。ろ液から得られた沈澱はきれいな薄黄色。
1H NMR d (CD3OD) 7.81 (1H, s) 6.81 (1H, s) 5.68 (1H, s) 4.56 (1H, s); d (DMSO-d6) 7.97 (1H, s) 6.85 (1H, s) 6.62 (1H, s) 5.71 (1H, s)
13C NMR d (DMSO-d6) 159.4, 157.6, 153.5, 146.5, 127.7, 109.5, 105.9, 103.2, 96.8, 45.7
IR (neat) 3300-3000, 3099, 2101, 1653, 1618, 1537, 1394, 1274, 1230, 1166, 1153, 940, 836, 810.

参考文献

T. Furuta, H. Takeuchi, M. Isozaki, Y. Takahashi, M. Sugimoto, M. Kanehara, T. Watanabe, K. Noguchi, T. M. Dore, T. Kurahashi, M. Iwamura, R. Y. Tsien, Bhc-cNMPs as either water-soluble or membrane-permeant photo-releasable cyclic nucleotides for both one and two-photon excitations, ChemBioChem, in press.

H. Ando, T. Furuta, H. Okamoto, Photo-mediated Gene Activation using Caged mRNA in Zebrafish Embryos, Methods in Cell Biology in press.

H. Ando, T. Furuta, R. Y. Tsien and H. Okamoto, Photo-mediated gene activation using caged RNA/DNA in zebrafish embryos. Nature Genetics, 28, 317-325 (2001). [PubMed]

R. Y. Tsien, and T. Furuta, Protecting groups with increased photosensitivities. PCT Int. Appl., WO 2000031588 (2000).

 


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