アーク

★★

高松伸(1983)

この鬼才をして、「私は、生涯でたったひとつの傑作をものにした」と言わしめたのがこの作品です(『夢のまにまに夢を見る』)。精確無比な反復、過剰な装飾、これらが与える強烈なインパクトは、さながらマーラーのシンフォニーのようです。そもそも反復とは、これだけ反復を行えば十分ということが決してなく、したがって、そこに示された欲求が際限のないものであることをあらわすものです。また、装飾とはそもそも余剰なものであり、そうした余剰が過剰にあるということは、その欲求が本質的にまともなものでないことを示しています。つまり、それらはいずれもきわめてエロティックな感情の発露であり、有限のものに飽き足らず、凡庸なものに飽き足らず、決して満たされぬとわかりつつもその運動を止めることのない官能が、否応なしにグロテスクな姿をまとって具象化したものにほかなりません。充足の断念こそをその本質とする存在が、鬱屈した自己主張をするときに、このような形があらわれるのです。マーラーのシンフォニー、とりわけ最も晦渋で不人気な第6番と第7番は、エネルギーを外へと解放して楽曲に解決をもたらすことがなく、ひたすら内部にたくわえこんでゆく不健康さの結晶と言ってよいでしょうが、それと同じ精神構造と、それに匹敵するかもしれない完成度の高さがここに見られます。

アークアークアークアーク

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