群馬音楽センター

★★

アントニン・レーモンド(1961)

地方オーケストラの先駆けとして知られる群馬交響楽団の本拠地となるべく、費用の一部を市民の寄付でまかないつつ建築されたというこの作品は、レーモンドの代表作であると同時に、公共建築の理想的なあり方を示すものとしてよく引き合いに出されます。バブル時代に競うように建てられた地方の立派な音楽ホールには、まともなコンサートなど年に数えるほどしか開かれないものも多く、私がかつて住んでいた福井県の「ハーモニーホールふくい」などはその典型でしたが、この群馬音楽センターには、「音楽を愛する心が生み育てた」という言葉が文字どおり当てはまります。

とはいえこの建物に関しても、老朽化による建て替えの話が全くないわけではないようで、しかもそのことはなかなか難しい問題を孕んでいるように感じられます。というのも、建て替えるべきだという意見は、他ならぬ音楽愛好家の中にもあるらしいからです。私も実際、ここで群響のコンサートを聴いてみましたが、その音響はかなり悲惨だったと言わざるを得ません。ステージの上でオーケストラは良く鳴っているのに、客席側の残響はゼロに等しく、聴衆はせいぜい音の「おこぼれ」を頂戴する程度です。フィナーレのクライマックスが築かれ、最後の音が響いたあとのわずかなひとときを、その余韻に包まれる至福のなかで味わいたいと思っても、ここでは不可能です。楽器が鳴り終わったまさにその瞬間に、あたかも絶壁から飛び降りるかのように、音楽の幕が下りてしまうからです。

建物を大きく損なうことなく音響効果を向上させることができるならば、もちろんそれが最も望ましいでしょう。しかし、もしそれが不可能だとしたら、どうすればよいのでしょうか。便利さや快適さを求めて文化遺産を破壊するという行為は非難されて然るべきですが、求められているものが音楽的感動である場合には、どうでしょうか。

もう一点、私の期待していたのとちょっと違ったのは、客席に降り注ぐ光が自然光ではなく人工照明だったことです。音楽ホールですから、考えてみれば当たり前の話です。ただ、同じレーモンドのカトリック目黒教会では、スリット状の窓から射し込む自然光が非常に美しく印象深かったことを想い出して、いささか残念な思いを禁じ得ませんでした。

群馬音楽センター群馬音楽センター

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