百十四ビル

日建設計(1966)

公園をはさんで向かい側に立つ、かの名高い香川県庁舎に遅れること8年、昭和41年ですから、同じ日建設計の代表作、パレスサイドビルと同年の作品です。当時、国内屈指の高さを誇ったそうです。

高層ビルと言えば、ミース・ファン・デル・ローエのシーグラムビルや、国内ならば霞ヶ関ビルに代表されるように、ガラスの窓が水平に並ぶのがふつうです。ニューヨークのレヴァー・ハウスは、低層部と高層部に分かれ、しかも高層部が低層部から少し浮き上がったように作られている点で、この百十四ビルと全体の構造がきわめてよく似ていますが、このレヴァー・ハウスもやはり、全身をガラスで包んだ実に軽快な姿をしています。

その点を考えると、この百十四ビルはかなり変わっています。たしかに南北の壁面にはガラス窓が並びますが、東西、とりわけ表通りに面して最も人の目に触れる西の壁面には、窓らしきものは見あたりません。そこはつるりとした壁ですらなく、亀の甲羅か象の皮膚のような、鈍い色の金属質の素材で被いつくされているのです。しかも、色が均一でなく濃淡があり、いかにも長い年月を生きてきた老いた動物のようです。さらに、西側に面した低層部には、頭上を横切る通路の外壁に彫刻的な造形が施され、それがまた、全体のずんぐりした印象を強調しています。

設計者の頭にはきっと、「レヴァー・ハウスと似て非なるものを造ってやろう」という、ある種の倒錯した意図があったにちがいありません。たしかにこの作品も、モダニズム的な近代ビルであることに相違はないのですが、モダニズムを象徴する軽快さや透明性、一目見てそれとわかる均質性や機能性をあえて捨て、それに代えて、有機的、ないしは動物的な外観を身にまとわせるという、なかなか大胆な自己主張をしているのです。

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