葛西臨海水族園

★★

谷口吉生(1989)

建築物の手前に池を配するという手法は、同じ谷口の土門拳記念館や豊田市美術館と共通するもので、その点だけを見るならば、マンネリズムもほどほどにしてくれという評価になるでしょう。ですがこの作品には、背後に本物の海が控えているという恰好のロケーションをうまく活用して、もうひとひねり、秀逸な仕掛けが施されています。その仕掛けとは、池の水位を海面よりも一段、おそらく10メートル足らず高くしたことです。そして、そのことがもたらす視覚効果は実に劇的なのです。写真を比較しながら見ていただくとわかりますが、池の向こうに連なる白いヨットの帆は、実はヨットの帆ではありません。それは地上に張られたテント状の帆布にすぎないのです。しかし、順路どおりにここへやってくる人々は、この帆布を池越しに目に入れないことはできません。すると彼らは必ずや、このトリックに見事に引っ掛かり、大海原を進むヨットに思いを馳せつつ水族館へと降りてゆくことになるでしょう。臨海水族園が面しているのは、実際には海と言っても狭苦しい東京湾です。それがこの演出によって、広々とした海洋の趣を漂わせています。

ところで、水族館として見た場合、葛西の魅力はどの程度でしょうか。東京近辺の他の施設と比較して、特におすすめと言えるでしょうか。葛西は規模の上では中くらい、混んでいなければ1〜2時間で見終わります。ただしここの大水槽はなかなか圧巻で、それだけでもわざわざ訪れる値打ちがあるかもしれません。逆に、イルカやアシカのショーはここにはありません。カワイイ系の動物としては、ペンギンがたくさんいますが、これも特に芸をしてくれるわけではありません。こうしたところが、この水族館のいいところです。つまり、遊園地的ではなく、むしろ博物館的な展示手法なのです。八景島シーパラダイスのゴテゴテした子供向けアトラクションをアホたらしくて耐えがたいと感じるようになった、オトナの水族館愛好家の皆様に、ぜひおすすめのスポットと言えましょう。

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