旧国立公衆衛生院=旧国立保健医療科学院白金庁舎

★★★

内田祥三(1940)

有名な安田講堂をはじめ、東大本郷キャンパスの多くの建物をデザインした内田の作品で、いわゆる「内田ゴシック」のスタイルで造られています。あまり知られていませんが、たいへんな傑作です。これだけのスケールの作品は、本郷にも存在しないと思います。安田講堂ですら、これには及ばないでしょう。正面玄関上部は7階まであり、徐々に低層になる両翼が、そこから鷹の翼のように前方に迫り出してきます。その場所の地形自体が、玄関に向けてゆるやかな上り坂になっているため、規模の大きさがさらに増幅されて感じられます。この正面玄関前広場に立ち、三方を建築物に抱かれたときに感じる迫力には、ちょっと比較できるものがありません。その空間には、重みがひしひしと体を圧してくる緊迫感があります。これより高い建物はいまどきいくらでもありますが、この感覚だけは、まさにこの場所に立つことによってしか知ることができないのです。

この作品の将来にも、暗雲が低く垂れ込めているようです。最後までこの中に残っていた国立保健医療科学院の一部局もとうとう去り、立入禁止の廃墟になっていると聞きました。もしかすると、もう取り壊しが始まっているかもしれません。

取り壊しが現実化しているとすれば、私はそれに強く反対します。それはきわめて露骨なスクラップ・アンド・ビルドの発想で、致し方がないと言った次元の話ではないと思います。一連の同潤会アパートの場合には、老朽化があまりにも激しく、もはや継続使用が不可能という議論にも一理ありました。しかしこの建物は、そんなやわな代物には全く見えません。本郷の内田建築群が健在なのと同様、まだまだ現役で使えるはずです。現在の耐震基準には達していないかもしれませんが、ちょっとやそっとの地震ではびくともしないでしょう。古い建築物ゆえに不便な点はあるとしても、使い物にならないなどということはありえません。ヨーロッパの古い街では、百年、二百年、あるいはそれ以上の時を経た建物が、今も政府や自治体、その他の公共機関や研究機関によって当然のように使用されています。

その点では昨今の東大も、歴史的建築物の保存には相当な力を注いでおり、現在、本郷キャンパスは日本中で最も美しい街並みをなしていると言っても過言ではありません。ここでもその方針を手本として、この比類なき作品を保存することを強く訴えます。幸い実は、ここは東大白金キャンパスの一角なのです。隣接して、医学関係の研究所や病院が今も存在します。今後、東大の関連施設として使い続けられることを心から願います。

2009年現在の追加情報ですが、当物件は港区に所有が移り、区の福祉関連の施設として再利用される予定となったようです。適切な改修、補強を施され、有意義に活用されることを期待しましょう。

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