谷村美術館

★★★★

村野藤吾(1983)

90歳を超えた村野、最晩年の境地を示す傑作です。その美しさは筆舌に尽くし難く、私はしばし、感動のあまり作品の前に立ち尽くしました。

シルクロードの砂漠をモチーフとしているそうで、白い砕石を敷き詰めた前庭の彼方に見える美術館は、あたかも岩か泥の塊のようです。館内に入ると、区切りなく続くその不定形な空間は洞窟を思わせ、自然の力と人間の素手によって造り上げられたものとしか見えません。さらに、美術館の外壁や、館外の回廊の壁において、地面と壁が垂直に交わるのではなく、両者が円弧を描いて連続的に結びつくところも特徴的です。

こうした点を見るうちに私は、これは建築というもののたどり着くひとつの終着点を示す作品ではあるまいか、つまり、ここでは建築がもはや建築であることをやめ、それ以前の何かへと回帰しようとしているのではないか、との思いを深めるに至りました。というのも、大地の上に、それとは異質な人工物を構築するということが一般的な建築の概念であるならば、この作品ではそうした通念がことごとく覆されているからです。

館内の写真を見ると、写真によって色調が大幅に異なることに気づくでしょう。これには、持参した写真機二台の特性の違いという原因もあるのですが、それ以上に、人工照明の有無が大きく関与しています。おおむね、アイヴォリー系の色合いになるのは照明が入ったときで、これは柔らかな光が工夫されていると同時に、展示された仏像への光の当て方にもさまざまな演出が施されています。他方、白色系の色合いは照明を切った自然光のみの状態です。こちらは一見したところ寒々として殺風景ですが、よく見ると、白の色調の多様性が実に豊かであるばかりか、時間とともに変化してゆく明るさや色合いが変幻自在で、光の魔術の真骨頂を堪能させてくれます。

ところで、この作品に対する村野の熱意は格別のものだったようで、高齢にもかかわらず、自ら現場に赴いて建設作業の陣頭指揮を執ったそうです。きっとそのためでしょう、現在ここで働いている方々と言葉を交わしても、「村野先生」に対する親愛と尊敬の念は、ひときわ深く根強いものであると感じられました。

実はこの美術館はすでに閉館しており、私も危うく見る機会を逸するところでした。幸い2009年5月、特別の開館期間に二度にわたって訪れ、至福のひとときを過ごすことができました。これほどの価値ある美術館がなぜ閉館という結末に至ったのか、私には知る由もありませんが、いかなる事情があるにせよ、いつかまたこの場所を訪れる時のあることを願ってやみません。

2011年4月より再び開館されました。うれしいことです。再訪を心より楽しみにしております。

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