旧帝国ホテル

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フランク・ロイド・ライト(1923)

竣工披露の当日に関東大震災発生に襲われるという名高い逸話とともに誕生してから、1967年に取り壊されるまで、結局50年に満たぬ命だったわけです。石造りの建物の寿命という観点から見て、50年足らずとは途方もなく理不尽な若死にです。まだ成人式も迎えておらぬのに、いったいどうしてこんなことに、と言ったところでしょう。

その玄関だけが明治村に移築され、現在もこうして拝むことができるわけですが、やはり、こういうのを保存とは言わないだろうというのが、実際に見て感じた圧倒的な印象です。それは、移築されたのが玄関部分に限られ、ホテル全体のごく一部分にすぎないということだけではありません。というのも、なにせこれは帝国ホテルであって、東洋随一の高級ホテルとして、しかるべき場所にしかるべき客のために建てられたわけです。有楽町の日比谷公園前という一等地に根を下ろし、良くも悪くも超一流と言われる人々を世界中から迎え続けてこそ、ふさわしい年齢の刻み方ができたというものでしょう。こんな片田舎のテーマパークで、こんもりした丘と方々から集めてきた何の関係もない建物に取り囲まれ、Tシャツを着て弛緩した表情の観光客にコーヒーを飲ませているようでは、屍をさらしているようなものです。

ホテルはむろん営利企業ですから、高層化して客室数を増やしたいという考えが出てくることはやむを得ません。しかしそこで、いややはりこれを壊したらもはや帝国ホテルではないのではないか、ライトの建築と帝国ホテルとは一蓮托生なのではないか、という判断がなされることが最も望ましいに違いないのですが、ホテル経営者にそれだけの見識が望めないとしたらどうすればよいのでしょうか。結局、行政が力を発動し、国民の税金を投入するのが次善の策ということになりそうです。近現代に造られたものであっても、高い価値が認められればただちに国宝に指定し、容易には指一本触れられぬようにする代わりに必要な金銭援助は行うという文化行政が必要なのでしょう。

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