東京文化会館

★★★

前川國男(1961)

2005年、東京ステーションギャラリーにて開催された『前川國男建築展』を見に行きました。案の定、ちっとも面白くありませんでした。それは結局、前川という建築家の造り出した作品がつまらないということに尽きると思います。

前川は、世代的には村野藤吾と丹下健三の間に位置します。しかし、これら二人の巨人と比べて、彼の作品は独創性の点で及ばず、見劣りがすると言わざるをえません。戦後、早熟の丹下がモダニズムと伝統の止揚を掲げて一世を風靡し、その後になって遅咲きの村野がある種の反動として注目を浴びるというねじれ現象の中で、彼の出る幕はありませんでした。ル・コルビュジエやアントニン・レーモンドの教えを受けたという恵まれた経歴も、むしろ教科書的退屈さへと彼を追いやる結果に終わったように思われます。

そうした中にあってこの東京文化会館だけは、前川の最良の部分が凝縮された傑作です。重量感のある外観は、中世の城塞を思わせます。中に入れば、ホワイエの天井に不規則にちりばめられた照明が星空のようです。そしてとりわけ、ホワイエに石垣風の傾斜した壁面が露出し、そこに城門のように穿たれた入口をくぐって大ホールに至るという仕掛けは、観客の期待感を高める演出効果に満ちています。

このホールでは、日本の音楽シーンを彩る多くの歴史的場面が演じられてきました。ヘルベルト・フォン・カラヤン、エフゲニー・ムラヴィンスキー、レナード・バーンスタイン、カルロ・マリア・ジュリーニといった偉大な音楽家たちの奏でた音が、この内壁に吸い込まれてきたと思うだけでも、実に感慨深いものがあります。蛇足ながら、かつて誇らしげに飾られていたこれらマエストロたちの写真が最近取り払われてしまったようなのは、たいへん残念なことです。

ともあれ、こうした歴史的役割を担ってきた点で、このホールはロンドンの名高いロイヤル・フェスティヴァル・ホールにも比せられます。両者はさらに、建築物の作風が全体にどこか似ているばかりでなく、オーケストラを聴くにはいささか残響がデッドである点まで共通しています。ところが、フェスティヴァル・ホールは文化財として保護の対象とされているのに対し、文化会館についてはそのような話を聞いたことがありません。向いに建つコルビュジエの国立西洋美術館には、世界遺産を目指そうという動きすらあることを考えると、これは奇妙な事態と言えるでしょう。古さやネーム・ヴァリューに頼るのではなく、自らの確固とした審美眼に基づいて判断を下す力量が、日本の文化行政に求められます。

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