東京デザインセンター

マリオ・ベリーニ(1992)

研究者というものは、とりわけ若いうちは貧乏で苦労するものと相場が決まっていますから、働き者の奥さんに食べさせてもらっている男はいくらでもいますし、ましてや大金持ちのお嬢様と結婚とでもなれば夢のような話です。ところが中には本当に運のよい男もいて、東京大学総合文化研究科の船曳建夫先生はその一人なのです。たまにテレビに出てくるダンディな文化人類学者と言えば、ご存知の方も多いのではないでしょうか。そう、この先生の奥様である船曳鴻紅さんこそ、この東京デザインセンターのオーナーであり、「鴻紅」という素敵なお名前はローマ字で「COCO」と綴るのだそうですが、このあたりからしてただ者ではなさそうですね。

イタリア人デザイナー、ベリーニの設計によるこの建築物は、ぱっと見たところ特に派手ではないものの、中を歩き回るにつれてさまざまな光景が展開して飽きることがなく、芸の細かい、趣味的要素の強い作品に仕上がっています。それはちょうど、丘陵に形成されたイタリアの古い集落で、迷路状空間を隅々まで探検することの楽しみに似ています。入居している書店やインテリア会社などは、あまり儲かっていそうに見えませんが、これもきっと、儲かるかどうか以上に大切なことがあるのでしょう。好きなことしかやりたくない、気に入ったものしか創りたくないという意志がひしひしと感じられる空間です。

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