メスバウアー分光研究会

Japan Mössbauer Spectroscopy Forum

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2015環太平洋国際化学会議(Pacifichem2015)

シンポジウム#254Nuclear Probes in Nanoscale Characterization

ナノスケールキャラクタリゼーションにおける原子核プローブ

 

brochure

野村 貴美

(東京理科大学)

 

2015年12月ハワイ州のワイキキ海岸近くのホテルを会場にして5年ごとに開かれる環太平洋化学会議(Pacifichem2015)に参加した。Pacifichemの参加は、今回で4回目である。ホノルル空港からワイキキへ行く途中にモノレールの橋梁が見え、工事が進められていた。空港からワイキキビーチを繋ぐモノレールの開通は、2020年とのことである。また、最近様子が変わっているところと言えば、高層ビルの建設が盛んに進められていたことである。以前はワイキキ海岸沿いにあるシェラトンホテルが高いビルであったが、今は周りの高層ビルに比較して低いビルになっている(写真)。ワイキキ海岸から5分ほど歩いたホテルに宿泊して最後の日にオーシャンビューの15階の部屋に移ったが、周りの高いビルの隙間からわずかに海が見える程度であった。

 

Pacifichem会議ナノスケールキャラクタリゼーションにおける核プローブのセッションの概要について述べる。 企画・運営に当たったのが 主査の高橋正(東邦大)、委員の山田康洋先生(東京理科大)、野村貴美(もと東大)、王軍虎教授(中国科学院), Virender Sharma教授(Texas A&M大, 米国), Anita Hill博士 (CSIRO, オーストラリア)である(写真2)。このセッションは、日本のメスバウアー分光研究会がサポートした。現在メスバウアー分光研究会の事務局を担当してくれている久冨木志郎先生(首都大)と彼の学生達がお茶やお菓子の買い出しなどでご協力いただいた。

 

12月16日に午前8:00から午後9時まで、Hilton Hawaiian Village, Kalia Towerの2階の一室を会場として開催された。椅子は30席しか用意されていなかったので、午後にはほぼ満席になった。プログラムは 表1に示した。特別講演40分、一般講演20分、夕方のポスター発表は、5分間のショートプレゼンテーションを含むポスター展示である。前回のPacifichemからポスター発表では、ショートプレゼンテーションを行うようにした。

 

16日午前中は、陽電子、ミュウオンとガンマ線摂動角相関による材料の評価の講演が行われた。はじめの講演者CSIROのAnita Hill博士は不参加になり、彼女の代理としてMonash大のMatthew Hill先生が特別講演を行った。数オングストロームの自由体積の分布を陽電子寿命測定法から求め、各種ポリマーの違いを述べた。ポリマーには主に2つの大きさの自由体積の分布があり、大きな空孔とそれをつなぐ小さい空孔からなるモデルが示された。水素、酸素、窒素、メタンなどの各種ガスの透過やガスバリヤーの評価ができる陽電子寿命測定法は、ポリマーのナノ空孔の解析に欠かせないものになっている。CSIROのKristina Konstas博士が関連する発表をした。 大阪大の二宮和彦先生が特別講演としてガスとミュウオンとの相互作用について紹介した。ミュウオンは、まだ化学への利用が少ないので、これから期待したい。金沢大の佐藤渉先生がCd-111のガンマ線摂動角相関(PAC)によるマグネタイトの解析を、夕方に一関高専の小松田沙也加博士が酸化亜鉛の酸素欠陥と超微細構造の解析を報告した。

 

メスバウアー分光法は、ご存知のように同位体の核共鳴現象でエネルギー分解能が約5×10–8 eVと特異的に高く、物質・材料の測定が比較的簡単にできる、有用な分析法である。そのため、今なお盛んに利用されている。ドイツのFranz Renz教授が光、温度、圧力の外部応答型錯体からミニメスバウアー装置について幅広く紹介した。またスピンクロスオーバー錯体は光などの外部刺激に対して応答するので、プラスチックファイバーにその錯体を付けた機能性光センサーを提案した。広島大中島覚先生は集積型錯体のメスバウアー解析と理論計算の結果を、東邦大の北澤孝史先生はホフマン型スピンクロスオーバー集積錯体のメスバウアー解析を報告した。いずれも各研究室で取り組んでいる研究発表である。

 

16日午後は、主にメスバウアー分光による機能性材料のナノ粒子の解析の講演であった。ブラジルの招待講演者Veyandre Garg教授は、最近の医療分野で盛んに研究されているドラックディリバリーのためのナノ磁性粒子について紹介した。中国科学院の王軍虎教授がLiangに代わって脱硫のためのフェライトの解析を発表した。そのほかプルシャンブルーと酸化チタンの複合材料(PB/TiO2) にUV光を照射し、・OHラジカルを生成して水の酸化促進浄化をするフォト・ヘントン反応のメスバウアー解析を発表した。夕方にはプルシャンブルー類似体とFe置換Ni-Si層間金属についても発表した。4件も発表して疲れたとのことだった。首都大の渡部友佳さんが鉄やマグへマタイトの単独の粒子では水の浄化効果がないが、2つの粒子を混合すると環境水の浄化性能が一層向上することを発表した。

 

テキサスA&M大のPaul Lindahl教授が真核細胞内で生成するナノ粒子の構造化学的な研究を特別講演として熱く語った。生物の用語が多く分かり難かったが興味あるメスバウアー分光の応用研究である。ハンブルク大で9月に行われたICAME2015でも同じような発表をしていた。

 

山田康洋先生は、ソノケミカルで合成した炭化鉄微粒子とその熱特性について発表した。首都大の飯田悠介さんは鉄を含むガラスの可視光による光触媒について発表した。紫外線による酸化チタンの活性に比べればまだ活性は低いが、現在光触媒の可視化が盛んに進められており,トピックスのひとつである。広島大の金子政志さんは、計算化学を得意とし、相対論的密度汎関数による151Euと237Npのメスバウフーパラメータを計算した結果を発表した。

 

野村は、酸化スズ膜に10–4%の極微量57Mnイオンを注入しながら57Feの発光メスバウアースペクトル(eMS)を測定した結果を報告した。酸化スズ膜ではFe2+,Fe3+の常磁性ピークのほかFe3+の常磁性緩和スペクトルが得られたが、57Mnイオン注入したIn2O3薄膜では、Fe2+の常磁性ピークのみであった。これらは、ヨーロッパ原子核研究機構CERN/ISOLDで行ったもので、一回の測定が5分位でeMSが得られる。

 

夕方のセッションでeMSに関連しては、放医研の加速器を用いて電通大の小林研と理科大の山田研の学生が57Mnイオン注入するインビームメスバウアースペクトル(eMSと同じ)の測定結果を発表している。アルゴンとメタンの低温マトリックスのeMSの発表者は、電通大の小林先生に代わって谷川祥太郎さんであった。また、LiHとLiDに57Mnイオン注入後の数10 ns時間分解のeMSの変化を測定し、電通大の佐藤祐貴子さんが発表した。希薄磁性に関連しては明大の鈴木茂代さんが1%57FeドープのSrSnO3の希薄磁性の研究を発表した。

 

理科大山田研の久保埜一平さんと天笠翔太さんが、それぞれ鉄硫化物、炭化鉄の微粒子について、佐藤美穂さんがレーザー蒸着による窒化鉄膜について発表した。最後に東邦大の高橋がSb-Auの有機金属錯体のSb(V)メスバウアースペクトルの解析結果を発表した。

 

夕方のセッションでは、初めて英語で口頭発表する大学院生が多かった。みなさん緊張した面持ちであったが、話が始まると立派に流ちょうにお話になっていた。質問は、スピーチの後、部屋の壁やガラス窓に貼ったポスターで受け付け、みなさんは和やかな雰囲気で討論を行った。最後まで残っていた人で撮影した下の写真をみるとその様子がわかる。CSIROのHillらのグループがワインを差し入れてくれた。ホテルの人にせかされるように会場を片づけて午後9時半に終了した。