1次元と多次元可変フィルタの最適設計法

可変ディジタルフィルタは音声,画像などの信号処理と符号化に応用できるが,その設計は非常に難しい。特に再帰形可変フィルタ の場合,安定性の保証が極めて困難であり,これまで任意の可変周波数特性を近似できる再帰形可変フィルタの設計法が開発 されていない。著者が本研究では,安定性が必ず保証される再帰形可変フィルタの設計法を提案した。また,可変フィルタの 設計問題を比較的容易な定常フィルタの設計問題と多次元多項式近似問題に分解できる新しい設計法を提案し,その有効性を 確認した。

可変非整数遅延フィルタの設計と高解像度画像補間への応用

ディジタル画像を構成する画素(ピクセル)の数をしばしば変更する必要が生じる。例えば、

(1) 画像の一部を切り出し、それを拡大してもっと細かく表示したい
(2) 現有の画像の画素数が多すぎて、画素数を減らしてから表示したい

などの応用が挙げられる。このような画像の解像度変換(re-sampling)の過程で画像の画質劣化が生じてしまう。 これまでに種々の解像度変換法が提案されているが、線形補間、2次多項式と3次多項式補間による手法が主流であった。 多項式補間を用いれば、与えられたディジタル画素の任意中間点における画素を補間によって得ることができるが、 解像度変換後の画像の画質が著しく劣化してしまう。それは周波数領域でこの問題を考える場合、補間多項式の周波数特性は 理想アナログ低域フィルタの周波数特性から大きく離れているからである。本研究では、この画質劣化問題を解決するため、 周波数領域で理想アナログフィルタの周波数特性に最大限に近い特性をもつ可変非整数遅延多次元ディジタルフィルタを設計し、 画像の連続解像度変換問題(拡大と縮小)を可変非整数位相遅延ディジタルフィルタリング問題として捉え、可変非整数遅延 フィルタリングを行うことによってディジタル画像の高精度かつ連続補間を可能にする。

広帯域ディジタル信号補間器の最適設計と画像補間

ディジタル信号補間器はディジタル信号から元のアナログ信号を復元するための理想ディジタルーアナログ変換器 (DA converter: digital-analog converter)である。本研究では、2次や3次の区間多項式(piecewise polynomial)で構成される 多項式補間器の周波数領域での新しい設計法を開発する。元の離散信号の直流成分保存と信号値保存の下で、多項式補間器の理想の周波数応答と 実際の周波数応答の重み付き自乗誤差が最小となるように区間多項式の最適係数ベクトルを見つける。 本設計法で設計された多項式補間器は従来の零次(zero-order, or nearest-neighbor)補間器、線形(linear)補間器、2次(quadratic)Dodgson補間器、 および3次(cubic)Catmull-Rom補間器より広い通過帯域をもつため、広い周波数帯域をもつ離散信号の高精度補間に有効である。また、 低い周波数帯域にエネルギーが集中する画像信号の補間にも極めて高精度な低域通過特性をもつ画像補間器の設計も可能となる。

音声情報圧縮

音声情報の効率的な符号化方式としてベクトル量子化がよく知られている。著者は音声情報が時間軸上で急に変化したり、 緩やかに変化したりする音声信号の定常性と非定常性に着目し、定常部分の音声情報に対してマトリックス量子化を 行い、非定常部分に対しては通常のベクトル量子化方式を採用する複合マトリックス量子化法を提案し、音質を従来の ベクトル量子化と同じ程度に保ったまま、音声情報の低ビット伝送が可能となる新しい符号化方式を提案した。

多次元ディジタルフィルタの最適分解設計法

近年,多次元ディジタルフィルタは動画像処理,医用画像処理,地震波,気象データ,レーダー,ソナーのデータ解析などの 応用分野でその有効性が注目されている。例えば,動画像は空間2次元と時間1次元の3次元信号としてモデル化でき, 3次元ディジタルフィルタを用いれば,雑音除去,画質改善,画像符号化などの処理ができる。特にこれからのマルチメディア 時代において,様々なデータと情報は多次元の形態で現れ,多次元そのまま処理されなければならず,多次元ディジタルフィルタ は益々その有効性を発揮することが期待されている。しかし,多次元ディジタルフィルタの設計は1次元のものよりずっと難しい。 著者はこれまで如何に多次元ディジタルフィルタの設計問題を1次元ディジタルフィルタの設計問題に単純化できるかについ て研究を進めてきた。多数の新しい設計法を提案し,有効性を確認した。これらの成果はアメリカのIEEE 出版社が出版したハ ンドブック Circuits and Filters に収録されている。

多次元ディジタルフィルタの完全並列形実現法

近年,多次元ディジタルフィルタは動画像処理,医用画像処理,地震波,気象データ,レーダー,ソナーのデータ解析などの 応用分野でその有効性が注目されている。例えば,動画像は空間2次元と時間1次元の3次元信号としてモデル化でき, 3次元ディジタルフィルタを用いれば,雑音除去,画質改善,画像符号化などの処理ができる。特にこれからのマルチメディア 時代において,様々なデータと情報は多次元の形態で現れ,多次元そのまま処理されなければならない。この場合, 多次元情報の処理量が膨大であるため,現段階のハードウェアの技術では,多次元ディジタルフィルタによる実時間処理は 極めて困難である。以上の実時間処理問題を解決するため,著者は多次元ディジタルフィルタの並列実現法を提案した。 この並列実現法を用いれば,任意の一般形多次元ディジタルフィルタを複数の完全分離形のものに分解でき,並列構造として 実現できる。並列構造は高速信号処理に適するため,本構造を用いれば実時間処理が可能となる。

以上の研究成果が

(1) IEEE Transactions on Circuits and Systems-I
(2) IEEE Transactions on Circuits and Systems-II
(3) IEEE Transactions on Signal Processing

をはじめとする海外の論文誌に掲載された。