「循環器系」ユニット講義録13

月日(曜日) 時限 担 当 講義内容 SBOs番号
5月13日(月)
2
運動循環 酸素摂取量とその制限因子
11

SBOs

【生理】
 11) 運動時の循環反応とその機序を説明できる.

運動時の循環反応
運動時の循環反応は,運動筋の酸素需要に足りる血液を供給することである。酸素摂取量は主に運動筋における酸素利用能と、心血管系による供給能によって決まる。またこの循環反応は運動時の運動筋への血流供給調節のほかに体温調節にも関与する。

血流配分
心拍出量は生体のおかれた状況に応じて各器官に血流配分される。激しい運動時には骨格筋の血流量が心拍出量全体の80%にもなるのに対し、逆に腎や内臓の血流量は大きく減少する。しかし心筋の血流配分率はほとんど変動しない。運動時の血流再配分は運動筋の代謝性血管拡張と非運動臓器(内臓や腎など)の反射性血管収縮とに影響を受ける。

図1

分時心拍出量
 運動時には交感神経が亢進し、副腎髄質への刺激によってホルモン(アドレナリンとノルアドレナリン)が分泌され、分時心拍出量を増加する.分時心拍出量は1回の収縮で左室から駆出される血液量と1分間に拍動する心拍数の積で表される.激しい運動時の分時心拍出量は安静時の5〜6倍にも増加するが、1回心拍出量よりも心拍数の寄与が大きい。この心筋のエネルギー(心筋酸素消費量)は冠血流量の増加によって得られる。

静脈還流
 静脈還流は運動によって著明に促進される。軽い運動では静脈還流は主に筋肉ポンプと呼吸ポンプにより増大するが、運動強度の増加にともなって反射性に交感神経緊張が主に内臓血管を収縮し、内臓貯留血が静脈還流に動員される。内臓血流量は中等度以上の運動になると内臓交感神経が亢進し、内臓血管の収縮によって減少する。 この血流量が大静脈系に移動し、心拍出量の増加に寄与する。運動時の腎血管も内臓血管同様に腎交感神経緊張により収縮し、血流量の減少を生じる。

心拍数
 運動時の心拍数は自律神経の影響を強く受け、運動強度とほぼ直線的関係にある。中等度の運動までは主に迷走神経の抑制によって調節されるが、それ以上になると反射性神経調節による交感神経緊張と運動筋の代謝性反射受容器を介する交感神経緊張の関与によって調節される。運動時の心拍数は環境因子、年齢、活動する筋肉量により異なる。

図2

図3

血圧調節
 運動時では迷走神経の抑制と交感神経の亢進による心拍数、心筋収縮力、血管抵抗の増大により血圧は増大する。軽い運動時には運動筋への血流を増加させるために適切な血圧に設定され、血圧の大きな上昇は起こらない。

運動筋血流調節
 運動筋の血流は血圧の上昇と代謝性血管拡張によって増大する。運動筋に流入した血液は筋肉ポンプにより心臓に戻され、心臓の前負荷を増加させる。これによって心拍出量が増大する。運動筋には低酸素やアシドーシスなどに反応する代謝性受容器が存在する。この受容器は運動強度の増加に伴って刺激され、血管運動中枢を介して反射性に交感神経を亢進させる。律動的運動は筋肉ポンプ作用による運動筋内の疲労物質を除去でき、静脈還流の増加もあって交感神経緊張は運動筋の血流阻止を起こす等尺性運動に比べて小さい。

皮膚血流調節
 運動によって体温が上昇すると、皮膚の交感神経拡張刺激により血管が拡張し、これまで運動筋への血流配分は体温抑制のために皮膚血流再配分に向けられるので、運動筋の血流は皮膚に奪われることになる。

筋肉ポンプ 筋肉ポンプは、律動的運動(筋収縮力)により静水圧に抗して深部静脈を圧迫し、貯留血液を静脈弁の逆流防止により中枢側へ移動する。さらに換気亢進により吸気時には胸腔内圧が低下し、腹腔内圧の増加によって、腹腔内静脈血が胸腔への静脈還流を増大させる(呼吸ポンプ)ので、中枢側への静脈還流は促進される。

図4

図5

最大酸素摂取量
 持久能力の指標に用いられる最大酸素摂取量は肺拡散能、心拍出量、酸素輸送能、酸素利用能に影響する。軽い運動では酸素の需要量と供給量は循環反応によってバランスを保つことができる。酸素負債量は少ない。気温の高いときの運動は体温上昇を抑制するために、運動筋の血流配分が皮膚に向けられるので、心拍出量が同じであっても持久能力は低下する。

図6

参考書:『TEXT生理学(第3版)』、堀 清記(編)、南山堂
    『標準生理学(第5版)』、本郷利憲他(編)、医学書院