神経系−2:中枢神経系」ユニット講義録14

月日(曜日) 時限 担 当 講義内容 SBOs番号
9月18日(水)
3
田 岡
脳幹反射3 A-4

SBOs
A「脳幹」
 4)脳幹反射を説明できる。

脳幹反射(3)

1.瞳孔の反射
 光反射(対光反射)、輻湊反射
(1)瞳孔の大きさの調節
 瞳孔
虹彩の中央に開く円形の小窓である。網膜に達する光は全てここを通過する。したがって、瞳孔の大きさは虹彩によって、大きくなったり、小さくなったりする。虹彩はちょうどカメラのしぼりと同じ機能をもっている。瞳孔の大きさが変化すると、入射光量と焦点深度が変化する。

 虹彩の筋肉が活動すると瞳孔は大きさを変化させる。ところで、その筋肉は意志でコントロールできないので、不随意筋である。これは自律神経に支配されている。瞳孔を広げることを散瞳、逆に縮めることを縮瞳という。各々、以下のような筋と神経に支配されている。
・散瞳=瞳孔散大筋(放射状に走る)……毛様脊髄中枢 交感神経(第1胸髄神経、Th1)、 頚部交感神経節
・縮瞳=瞳孔括約筋(輪状に走る)………動眼神経副核 副交感神経(動眼神経) 毛様体神経節

 瞳孔括約筋を支配する副交感神経は、動眼神経(III)のなかに含まれている。この副交感神経は中脳の動眼神経副核(Edinger-Westphal核)から出て、動眼神経のなかを走行して括約筋にいたる。

 瞳孔の大きさは交感神経と副交感神経の2つの神経により拮抗的に支配されている。もし、頚交感神経が麻痺すると毛様脊髄中枢の支配がたたれることになり、瞳孔散大筋の収縮による散瞳が障害されることになり、縮瞳する。

 正常の瞳孔は左右同大で、φ3〜4mmで、完全暗黒下で直径8mmで、瞳孔の面積は数倍程度にしか変化しない。つまり、瞳孔の調節による入射光量の調節は大きな物ではない。

(2)瞳孔の収縮に関係した2つの反射とその神経回路
 対光反射(light reflex):光が照射されると縮瞳し、遮光されると散大する.
 眼に入る光の強さが急に増すと、瞳孔は縮瞳する。左右の眼の片方だけ刺激しても両方の眼が縮瞳する。刺激した側の眼の反応は直接対光反射(direct light reflex)、他側の眼のものを共感性対光反射(consensual light reflex)という。後者は少し弱い。
 対光反射の反射弓
網膜→視神経→視索→視蓋前域→両側動眼神経副核(Edinger-Westphal核)→動眼神経(両側)→毛様体神経節(両側)→瞳孔括約筋(両側)
 このように、網膜からの情報は視床の視覚中継核である外側膝状体を介さずに中脳の視蓋前域に入力する。この先は両側の動眼神経副核(Edinger-Westphal核)に投射するので、片方の眼の刺激で両側の瞳孔が縮瞳することになる.

 近見反応
 どんどん眼に近づく物をみつめているときに調節反射と輻輳反射が同時におこなわれる。
調節反射
 近づいてくる物をみつめていると毛様体筋が収縮し、水晶体の厚みが増し、近くにある対象物の像が網膜上に正しく結像される。
 輻輳反射(convergence reflex)
 物体を近距離で注視すると、両眼の視軸が近寄る(輻湊)。分かりやすく言い換えると「近づいてくる物をみつめると両側の内直筋が同時に収縮して寄り目になる。」この時、縮瞳が起こる。この一連の反応を輻輳反射という。縮瞳は焦点深度を大きくする意味があると考えられる.縮瞳は内直筋の刺激が三叉神経中脳路核を経て動眼神経副核(Edinger-Westphal核)に伝わるために起こる。

(3)眼球に関係したその他の反射
 角膜反射(corneal reflex)
 角膜に物が触れると眼が閉じる。一側の角膜刺激で両側の閉眼が生じる。
 角膜刺激―(三叉神経)―三叉神経核→顔面神経核(両側)→(顔面神経)→眼輪筋の収縮(両側)
 *角膜表層には三叉神経第1枝(眼神経)が分布している。角膜感覚は痛覚のみである。角膜反射は鋭敏で、顔の感覚麻痺以前の軽度の麻痺で消失する。閉眼は顔面神経支配の眼輪筋による。角膜反射の異常では、眼神経と顔面神経の2つの障害の可能性を考えなくてはならない。

 毛様体脊髄反射
 首や前胸部の痛み刺激で散瞳する反射で脳幹が障害されていると起こらない。

(4)対光反射の臨床的意義
 対光反射の異常
(1)脳死判定
 脳死判定基準の「脳幹反射の消失」に対光反射が含まれている。
 「(1) 深い昏睡、 (2) 自発呼吸の消失、(3) 瞳孔が固定し径が左右とも 4mm 以上、 (4) 脳幹反射(対光反射、角膜反射、毛様脊髄反射、眼球頭反射、前庭反射、咽頭反射、咬反射)の消失、 (5) 平坦脳波、(6) 以上の条件が満たされた後、 6 時間の経過をみて変化がない、があれば脳死と判定してよい。」

(2)脳幹障害の診断
 一側か両側か:部位の推定
 (例1)「直接対光反射(−)、間接対光反射(+)」のケースでは
 光側の動眼神経障害
 (例2)直接対光反射(−)、間接対光反射(−)のケースでは
 光刺激を加えた側の視神経障害

 意識障害の有無:脳幹の広範な障害かどうか。
 意識障害が有り(脳幹網様体)、対光反射にも異常があると障害が広範にわたると考えられる.

2.前庭系を介した反射
 前庭動眼反射:前庭器官->前庭神経核->脳幹眼球運動制御系
 視運動性眼球運動:網膜->視蓋前域->前庭神経核->脳幹眼球運動制御系
 以上、2つの反射については1学期にすでに触れた。これらは頭部が動いた時の視線の動きを最小限にし、網膜像の安定化をはかるための代償性眼球運動である。

(1)前庭神経核について
 一次ニューロンは前庭神経節の双極細胞である。前庭神経は橋・延髄の前庭神経核に終わる.一部は小脳皮質に達する.前庭神経核の二次ニューロンは、視床、小脳片葉、動眼神経核、外転神経核、前庭脊髄路などへ連絡する.
 前庭神経核には視覚入力、小脳からの入力、頚筋からの体性感覚入力などもある.
 この項目では特に以下の点について説明する。

(2)前庭脊髄路(vestibulospinal tract):前庭神経核から、脊髄前索を下行する。頚筋、体幹筋及び四肢伸筋に出力する錐体外路の一つである。

(3)前庭頸反射:頭部を地面に対して垂直に静止させる働きがある。
 頭部が外力で動いた時、元に戻す反射である.
 頭部の動きを前庭器官で検知し,前庭脊髄路を介して頚筋に逆の動きを生じさせる.
 半規管->前庭神経核(特に内側核)−>前庭脊髄路->頚筋運動ニューロン
 (例)頭部の水平右方向への回転->右水平半規管からの信号の増加
 ->@左背側頚筋運動ニューロンの興奮性の増大
 ->A右背側頚筋運動ニューロンの興奮性の抑制
 ->頭部の左方向への回転
 *(この時,反対側半規管は信号の減少が見られる事に注意)

 頭部の実際の動きはかなり複雑であるため、引き起こされる反射も複雑になることが多い。また、前庭神経核から網様体を介した多シナプス性の経路も存在する。

(4)その他の前庭系を介した反射
@ 「頭部が外力で動いた時、元に戻す反射」としては、前庭頸反射以外に、
 頚筋固有感覚そのものが刺激の検知機構として働く反射(頸反射)も重要である。
A前庭器官が関与するその他の反射としては、四肢を伸展させて抗重力機能を高める姿勢反射などがある。