「呼吸器系」ユニット講義録12,13

月日(曜日) 時限 担 当 講義内容 SBOs番号
4月25日(木)
2
呼吸・運動1 運動の強さと換気応答 8、9、10
3
呼吸・運動2 特殊環境下における運動時の換気応答
15

SBOs

SBOを変更運動時の換気と酸素運搬を説明できる。

運動時の呼吸の役割は、活動細胞の代謝に見合う酸素(O2)を供給して、運動の持続に必要なエネルギーを生成することである。運動の持続に必要なエネルギーを生成することである。

肺循環

 肺循環は体循環の血流量にほぼ等しく、運動時には安静時の5倍ほど増加する。肺循環時間は4〜6秒ほどかかり、その間に肺動脈−毛細血管間、毛細血管入口〜出口間を通過する時間内にガス交換(拡散)が終了しなければならない。この通過時間は肺胞−血液間のガス交換(拡散)に重要で、運動時には心拍出量の増加が肺血流速度を上昇させ、肺胞毛細血管通過時間を短縮させるので十分なガス拡散が行われない場合も生じる。激しい運動時にはそれが顕著となる。

換気 /血流比(VA/Q)

 運動時に心拍出量が増えて、肺循環系の血流が増加すると、これまで閉鎖していた肺尖部の血管の再開通(recruitment)が起こる。これは肺胞毛細血管還流面積の増加となる。他方、運動時には換気量も増えるが、その際、上部肋間筋や頚部の補助吸気筋の活動が現われるため、肺底部だけではなく、肺尖部での換気量も増える。運動時には、換気 /血流比の肺内分布がより均一になり、ガス交換の効率が改善される。

肺拡散能

 肺のガス交換(拡散)は肺胞毛細血管面積で決まり、運動時には肺胞毛細血管の再開通が起こり、肺胞毛細血管還流面積(拡散面積)が増加するので、摂取される酸素量が増加し、肺拡散能が増す。しかし肺胞毛細血管還流面積の拡大や肺拡散能の増加には限界がある。

換気応答

 運動開始直後に起こる急激な換気量の増加は、代謝の増加と対応しない。予測制御的な調節であり、上位脳の視床下部が関係する。視床下部後部の刺激は、換気亢進とともに、頻脈・血圧上昇、筋への血流増加、血糖の上昇など、攻撃や逃走の準備状態を誘発する。次に起こる緩やかな換気の増加は代謝状態にほぼ対応する。体液性の要因(CO2など)が換気を刺激し変化させる。

分時換気量(VE)

 運動時に1回換気量(肺胞換気量と死腔換気量の和)と呼吸数は増大するが、ガス交換にあずかる肺胞換気量は呼吸パターン(頻度や深さ)に依存し、ガス交換効率に影響を与える。激しい運動時の分時換気量の増加は呼吸数の増加に影響し、有効換気が減少してガス交換効率の低下を引き起こす。運動時の分時換気量は最大努力換気量(MVV)の50〜80%で、残り20〜50%が呼吸予備能となる。呼吸予備能は激しい運動時の換気の増加に利用される。

過換気

 激しい運動時の換気は浅く速いために、ガス交換効率は低下する。運動のような代謝の亢進がないのに、精神的なストレスなどで過換気が起こると、肺胞のPCO2が顕著に減少し、動脈血PCO2の低下を生じる。そのために組織への酸素供給量が不足して低酸素症状を生じる場合がある。

O2運搬量

 組織に運搬されるO2運搬量は動脈血O2含量と血流量の積である。安静時のような一定の運搬量があれば酸素消費量はほぼ一定に保たれるが、激しい運動時には運搬量の低下にともなって組織の低酸素状態が無酸素的代謝(乳酸産生)を引き起こし、CO2の産生が亢進し、換気の刺激が強められる。

酸素供給

 酸素供給量は、動脈血と組織それぞれの酸素圧、および赤血球内へのヘモグロビンの酸素親和性(酸素解離曲線)で決まる。血漿による運搬量はわずかである。とくに運動時の酸素供給量を増加させる要因は温度上昇、pHの低下、PCO2の上昇、2,3-DPGの増加などによる。それらの濃度変化は代謝状態の変化を反映する。その結果、酸素親和性の減少(右移動)が起こり、組織への酸素供給が促進される。

酸素消費量(VO2)

 動静脈血O2含量差が組織で消費されたO2量(酸素消費量)である。安静時の動静脈血O2含量差は全身の平均で5mL(動脈血O2含量20mLO2/dL)であるが、激しい運動時には心筋・骨格筋で15〜17 mLO2/dLと増加する。ただし動静脈血O2含量差は組織によって異なる。全身の酸素消費量(V O2)は空気ガスと肺ガスの酸素濃度に肺換気量を乗じて求めることができる。このとき分時酸素消費量と炭酸ガス排泄量は標準状態(1気圧、0℃、水蒸気圧0(乾燥ガス))に変換して求める。

呼吸の適応

 持久性トレーニングや高地トレーニングは酸素の摂取効率を高める。急性低酸素状態をつくることによって適応をもとらす。また高所原住民は慢性低酸素状態による低酸素の換気刺激亢進が減少し、高所馴化を獲得する。

参考書:『TEXT生理学(第3版)』、堀 清記(編)、南山堂

    『標準生理学(第5版)』、本郷利憲他(編)、医学書院