「呼吸器系」ユニット講義録8

月日(曜日) 時限 担 当 講義内容 SBOs番号
4月22日(月)
2
有 田
呼吸生理1 ガス交換  
9,10,11,12,13

SBOs

【生理】
9) 肺胞の構造をガス交換機能と関連づけて説明できる.

+8) 肺胞換気と死腔を説明できる.

10) 肺の換気血流比を説明できる.
11) 血液(赤血球・ヘモグロビンなど)による酸素・二酸化炭素の運搬の仕組みを説明できる.
12) 低酸素血症の要因を列記できる.
13) 呼吸と酸塩基平衡の関連を説明できる.

 

9) 肺胞の構造をガス交換機能と関連づけて説明できる.

肺胞壁の模式図

酸素分圧の生体内変動

 空気中のO2分圧は160mmHg 、気管内で150mmHg、肺胞ガスで102mmHg 、動脈血で100mmHg 、混合静脈血で40mmHgである。

肺胞でのO2拡散

 圧勾配、境界膜の透過性、拡散面積がO2拡散を規定する因子である。肺胞と混合静脈血の圧勾配は60mmHg 、境界膜である肺胞壁の厚さは0.5μm以下、肺胞の総表面積は成人で約60-70m2と広大である。肺胞と血液の間でO2平衡が達成されるに0.25秒程度であるが、肺毛細血管を流れる時間は安静時で0.75秒である。

酸素分圧の生体内変動

8) 肺胞換気と死腔を説明できる.

肺胞換気量

一回換気量(500ml)のうち、約150mlは肺胞でのガス交換には直接関与しない解剖学的死腔である。痰などで気道が閉塞されると、それより末梢側も機能的に死腔(生理学的死腔)となる。一回換気量から死腔量を引いたものに、呼吸数をかけたものが肺胞換気量(VA)である。

気道分岐と断面積

10) 肺の換気血流比を説明できる.

換気/血流比(VA/Q Q:血流量)

 数億個の肺胞すべてが、同一の換気量と血流量を受けることは、どんな健康な人においてもあり得ない。気道が閉塞されて換気に参加しない肺胞や、換気は良好な肺胞でも血管が閉塞されて血流がない場合(VA/Q=0)など、肺は多様な換気/血流比(VA/Q)の組み合わせで構成される。肺胞のすべてが同一の換気量と血流量を受けると仮定した場合には、VA/Q =4-5l/分 / 5L/分 = 0.8となる。

シャント

 気道の閉塞等で、血流が肺胞を通らず、換気が行われず静脈血のままであること。低酸素血症のひとつの因子である。

肺循環系

 肺循環系は体循環系と比べて低圧系である。肺動脈の収縮期圧は25mmHg、拡張期圧は10mmHg、平均15mmHgで、体循環系の動脈圧の約1/6である。このように低圧系であるので、肺循環系の血流は重力の影響を受ける。立位では、肺底部の血流は豊富であるが、肺尖部の血流は閉塞、阻害される傾向になる。VA/Qとしては、肺尖部で大きく、肺底部で小さくなる。

運動時のVA/Q

 運動時に心拍出量が増えて、肺循環系の血流が増加すると、それまで閉鎖していた肺尖部の血管の再開通(recruitment)が起こる。他方、運動時には換気量も増えるが、その際、上部肋間筋や頚部の補助吸気筋の活動が現れるため、肺底部だけではなく、肺尖部での換気量も増える。運動時には、換気/血流比の肺内分布がより均一になり、ガス交換の効率が改善される。

換気/血流比の肺内変動

11) 血液(赤血球・ヘモグロビンなど)による酸素・二酸化炭素の運搬の仕組みを説明できる.

血液によるO2運搬

 血液に拡散した酸素は、僅かながら物理的に溶解するが、大部分は赤血球中のヘモグロビン(Hb)に取り込まれる。血液100ml中にHb15gがあると、HbがO2で100%飽和された場合、O2含量は約20mlとなる。

酸素解離曲線

横軸にO2分圧、縦軸に酸素飽和度をとると、その関係はS字状となる。肺でのO2の取り込み、組織でのO2の解離に有利な特性を備える。CO2排泄の増加、水素イオン濃度の上昇(pHの低下)、局所温度の上昇によって、酸素解離曲線は右方へシフトし、O2解離を促進させる。この時、P50は大きくなる。

酸素消費量

 安静時には動脈血に含有するO2の25%が利用されるに過ぎない。100mlの血液に含まれる20mlのO2含量のうち、5mlだけが消費され、15mlのO2は使われずにもどってくる。心拍出量を約5000ml/分とすると、O2消費量は250ml/分となる。

ヘモグロビン酸素解離曲線

O2含量と酸素運搬量

代謝によって産生されたCO2は、水と反応して炭酸(H2CO3)となり、炭酸は解離して、水素イオン(H+)と重炭酸イオン(HCO3-)になる。すなわち、CO2 + H2O ⇔ H2CO3 ⇔H+ + HCO3- という反応が発生し、平衡する。

赤血球によるCO2の運搬

 上記の反応は組織液や血漿中では数秒かかるが、赤血球は反応を加速する酵素である炭酸脱水酵素をもつので、数ミリ秒でCO2を処理できる。そのため、赤血球はCO2を排泄する上でも重要である。なお、CO2の一部はヘモグロビン(Hb)に結合した形、CO2 + Hb-NH2 ⇔HbNHCOOH (カルバミノ化合物)としても運搬されるが、大部分は重炭酸イオン(HCO3-)の形で運搬される。

CO2解離曲線

横軸にCO2分圧、縦軸にCO2含量をとると、その関係は直線(比例)となる。このCO2解離曲線はO2飽和度が低下すると上方にシフトし、CO2含量が増える方向に変化する。すなわち、動脈血よりも静脈血の方がCO2含量が多くなる。

CO2排泄量

 混合静脈血のCO2分圧は46mmHgであり、動脈血CO2分圧は40mmHgである。安静時には約4mlのCO2が血液100mlから抜き取られるので、心拍出量を5000ml/分とすると、200ml/分のCO2排泄量となる。

重炭酸イオンによる緩衝作用

 代謝によって産生されたCO2は肺でのガス交換の後、かなりの量がHCO3-として血漿中に貯蔵される。このHCO3-は血液の酸を緩衝する物質として重要である。例えば、乳酸(HL)⇔ H+ + L- が発生すると、乳酸ナトリウムを形成して、酸であるH+は炭酸(H2CO3)に取り込まれ、H2CO3 ⇔ CO2 + H2O という反応を経て、肺からCO2ガスとして排泄される。したがって、重炭酸イオンによる緩衝作用はガス交換機能(CO2排泄)と連動した調節系である。

赤血球による炭酸ガスの運搬

CO2解離曲線

12) 低酸素血症の要因を列記できる.
13) 呼吸と酸塩基平衡の関連を説明できる.

参考書:『TEXT生理学(第3版)』、堀清記編、南山堂

    『標準生理学(第5版)』、本郷利憲等編、医学書院

ビデオ:基礎医学シリーズ『目で見る解剖と生理』Vol.8 呼吸、有田秀穂監修、医学映像教育センター

    (図書館にて閲覧可能)