「感覚器系」ユニット講義録11,12

月日(曜日) 時限 担 当 講義内容 SBOs番号
11月11日(月)
2
田 岡
視覚1 A-1,2,3
3
田 岡
視覚2 A-1,2,3

SBOs
A「視覚」
 1)視覚情報処理のしくみを網膜、外側膝状体、大脳皮質の各レベルで説明できる。
 2)両眼による立体視の機構を説明できる。
 3)物体の認知、色の識別、空間識、注視に係わる視覚野と連合野について説明できる。

視覚
1.眼の調節
(1)正視眼の調節
 正視眼の無調節状態では、無限遠にある物体の像が網膜上に結ばれる。この状態では、近くにある物体の像は網膜の後方に結ぶことになりる。近くにある物体を見えるように眼のレンズ系の屈折力を増加させ物体の像を網膜上に結ばさせる過程を眼の調節(accomodation of the eye) という。
 屈折力の増加は水晶体の曲率の増加による。それは、毛様体筋の収縮により行なわれる。
水晶体は網様体小帯による支えられている。無調節状態では水晶体は小帯により引っ張られているため、扁平化している。毛様体筋が収縮すると小帯の張力が減少し、水晶体は自らの弾性のため曲率が増加する(厚みが増す)。

(2)毛様体筋の神経支配
 毛様体筋は副交感神経支配である.網膜像のぼやけが大脳皮質視覚野で認識される.その後、視蓋前域→動眼神経副核 (Edinger-Westphal核)→動眼神経→毛様体神経節→毛様体筋となる。

(3)老視
 年齢とともに水晶体の弾性は減少する。従って調節力は低下する。つまり近くの物体に焦点が合わなくなる。45才以上となると最近点が25cm以上となり、読書が不自由になり凸レンズで補正しなければならない。これを老視(presbyopia)という。

(4)屈折異常
 無限遠の像が網膜上に結像しない場合を非正視(ametropia、屈折異常)という。次の種類がある。
 (イ)近視(myopia) ;網膜より前に結像。主に、眼球の奥行きが大きいために起こる.凹レンズで矯正する。
 (ロ)遠視(hyperopia) ;網膜より後に結像。主に、眼球の奥行きが小さいために起こる.凸レンズで矯正する。
 (ハ)乱視(astigmatism) ;レンズ系の屈折力が方向によって異なる。角膜や水晶体の曲率が一定でない。

2.視細胞の応答
(1)杆体(cone)と 錐体(rod)

 視細胞には杆体と錐体の2種類がある.その外節内部には形質膜が折り重なってできた層板体(が数百枚存在する。この円板に視物質(感光色素)が含まれている。杆体1個に感光色素である rhodopsin が1017〜109分子あるという。
(2)杆体の光受容
 網膜に光が照射されると、第一に視細胞の視物質が光量子を吸収し、分解する。
 すなわち、視物質→opsin(蛋白質)+発色団となる。
 最も詳しく調べられているのが杆体に含まれている rhodopsinである。分解の過程は2つよりなる。
 Rhodopsin(吸光最大 498nm)はopsinとretineneの結合したものである.光を吸収すると
 opsinとall-trans retinalに分解する。all-transretinalはcis型に変換された後、
 再びopsinと結合し、rhodopsinが再生される.

(3)錐体
 錐体には視物質の違う3種類がある.各々、青、緑、赤に最大吸収を示す。光受容の仕組みは基本的に杆体と同じと考えられている.

(4)細胞内電位変化(過分極応答)
 視細胞は光照射によって、過分極応答を示す.
 暗闇のとき、視細胞ではその形質膜を介して、Na+電流が外から内に向かって流れている。このため、
細胞は脱分極の状態にある.光刺激によって、細胞内cGMP濃度が低下するとNa+チャネルに結合していたcGMPが離れる.するとNa+チャネルが閉じる.このため、光刺激により形質膜のNa+透過性が減る事になる。その結果、細胞内は過分極となる。

(5)錐体と杆体の違い
 錐体と桿体には以下のような違いがある.
@網膜上の分布の違い:ほとんどの錐体は中心窩に存在するが、杆体は中心窩には全くなく、その周辺に存在する。
A錐体には波長吸収曲線の違う3種類(青、緑、赤)があるが、杆体は一種類である.
B光刺激に対する応答では、杆体は感度がよく、弱い光でも応答するが、応答特性が悪い.特にOFF時にはなかなか静止電位に戻らない.一方、錐体は感度は悪いが、応答は速い.

(6)明所視と暗所視
 明るい場所と暗い場所では網膜の光受容の仕組みが違う。これを光受容に関する二元説といい、各々、明所視(photopic vision)と暗所視(scotopic vision)という。これらは働く視細胞に違いがある.錐体は明所視を司さどり、杆体は暗所視を司さどるとされている。錐体と杆体の性質の違いから、明所視では中心視と色の弁別(色覚)が可能であるが、暗所視ではできない.
明るい場所から暗闇に急に入ると、始めは何もみえないが時間がたつと次第に見えてくる.これを暗順応という.
 暗順応時には、30分から1時間にわたって光覚閾が次第に低下する。この過程は次のように考えられる.
 光照射下ではrhodopsinの再生と分解は平衡状態にある.この状態で暗闇になると、分解過程は抑えられるが、再生過程はそのままである。したがって,視細胞内のrhodopsinの量が増加する.そのため、感度が良くなる(閾値が低下する)
 暗順応時の時間経過による光覚閾の低下を示した曲線を暗順応曲線(dark adaptation curve)という。暗順応曲線は網膜の部位で異なる。中心窩では、明から暗に移って2〜3分以内に急速に閾値が低下し、5〜10分で一定値に達する。網膜周辺部では、光閾の低下は比較的ゆっくりと生じる(30-60分)。従って、全眼に照射して閾値を調べると、2相に分かれた曲線が描ける.第1相は錐体、第2相は杆体が関与した過程とみられている。

3.網膜神経節細胞の応答
 
視細胞で受容された光の情報は、網膜内の神経系で変容を受け、視神経では、神経インパルスの形にかえられ、中枢に伝えられる。
 網膜での基本的な情報の流れは
視細胞->双極細胞->神経節細胞
である。
 水平細胞やアマクリン細胞はこの情報の流れを修飾すると考えることができる.神経節細胞では活動電位が生じ、その軸索にそって、上位の中枢に情報が送られる.この軸索の束が視神経である.
(1)神経節細胞の受容野 (recpeitve field)
 網膜神経節細胞の単一ニュ−ロンのスパイク活動を細胞外記録することは比較的やさしい。それで、これを指標にして、光に対する活動パターンがくわしく調べられている。網膜神経節細胞は、真っ暗闇でも、たえず放電している。これを自発放電という。自発放電は、光の照射で変化する。この時、一個のニュ−ロンが受け持つ網膜上の範囲がある。この範囲をこのニュ−ロンの視覚受容野という。一般に感覚系の一個のニュ−ロンが受け持つ感覚刺激の範囲を受容野という。網膜神経節細胞の受容野の中心部を照射するときと、周辺部を照射する時の反応は拮抗的である。神経節細胞は反応の違いから二つの種類に分類できる。
@オン−中心、オフ−周辺型ニュ−ロン(on-center, off-surround type)。中央部を照射するとき発火し、周辺部を照射すると 刺激中は抑制され、off直後に発火する。
Aオフ−中心、オン−周辺型ニュ−ロン(off-center, on-sorround type)。@と逆の反応を示す。

 神経節細胞が受容域の中心と周辺で拮抗的に体制化されていることは、網膜に写った像を sharp にする効果がある。
 オン中心・オフ周辺型ニュ−ロンは受容野中心部の視細胞から興奮性の影響を、周辺部から抑制性の影響を受けていると考えられる。明暗の境でのオン中心・オフ周辺型ニュ−ロンを考えてみる。
(イ)明るい光があたっている部位の細胞は、興奮性入力と共に抑制性入力を受け、中等度の放電をしている。
(ロ)境に近く明るい所にある細胞は、抑制性の入力が半分だけないから、(イ)の場合に比較して発火頻度が大きい。
(ハ)境に近く暗いところのニュ−ロンは明るい部分からの抑制入力のみ受けるから、他の暗い部分に比較して発火頻度が小となる。
 従って、明暗の境では、明るい所はより明るく、暗い所はより暗いように強調される。これが辺縁対比(border contrast)の仕組みである。

4.視覚伝導路

中枢視覚系の大要は、網膜から発した視覚線維は視神経(optic nerve)となり、後方に進み、視交叉(optic chiasma)を経由して視索(optic tract)となる。視索は大脳脚の外側を通り、外側膝状体に投射するものとそれ以外にわかれる。
 視交叉においては、網膜の鼻側から来るものは交叉、耳側半分から来るものは非交叉である。従って、両方の網膜の右半分から右側の視索にゆく。網膜の右側は視野の左側半分に相当するから、右側視索以降では視野の左側半分からの視覚情報が送られている。一方、左側視索は視野の右側半分を受け持っている。従って、左側の外側膝状体、左半球視覚野では視野の右側半分の情報が両眼から入力することになる.
 視覚経路のいろいろな部位が損傷されると、種々の型の視野欠損が生じる。一側の視神経の損傷では1眼の全盲(total blindness)が生じる。交叉部付近の腫瘍などのために、視交叉が圧迫されると、両耳側半盲が生じる。視交叉以降の一側の損傷では、同名半盲(homonymous hemianopsia、同側半盲)が生じる。

5.大脳皮質視覚野(visual area)
 外側膝状体から出た視放線は、鳥距溝(calcarine fissura)の17野(一次視覚野)に投射する。網膜の部位と17野の部位は対応がある。中心窩の部分が特に皮質の大きな部位をしめる。
 17野のニューロンの性質は神経節細胞と大きく違う。スポット光には応ぜず、特定のパターンの刺激にのみ反応する。その中でも短冊型のスリット光の刺激によく応じるニュ−ロンが注目されている。
 これらのニューロンの多くは方位選択性を持っている。スリット光の向きを変えると、特定の方向に対して、最大の興奮性を示すが、この直角方向では、反応が生じない。
17野からはさらに高次の視覚野に情報が送られ、物体の形の認識、奥行きの認識、運動の認識などが可能となる.

6.外側膝状体外系
 視神経のうち、外側膝状体に入力しないものの主な投射先は、@視床枕、A上丘、B視蓋前域*、C視交叉上核などである。このうち、視床枕は高次視覚野に投射する.また、上丘も視床枕を経由して高次視覚野に投射する。これら膝状体を経由しない大脳皮質への入力を外側膝状体外系という。
この機能については不明な点が多いが、皮質盲の患者では明らかに外側膝状体外系が存在することが明らかになっている.
 一側の一次視覚野の損傷ではは対側視野が欠損する(皮質盲)。しかし、視野中心部への強い光刺激では、対側視野でもを分かる. 欠損視野に加えられた刺激でも、認知はできないが、定位ができたりする。

 *:視神経が視蓋前域に入力する経路は視運動性眼球運動や瞳孔調節などの反射に関係している.

7.両眼視
 両眼をもちいて一物体を注視するとき、それぞれの眼の網膜には別々に映像が生じるが、物体は単一のものとして見える。これを両眼単一視(binocular single vision)という。両眼単一視が生じるには物体の像が左右網膜上の対応点 corresponding point の近傍に作られる必要がある。対応点とは、中心窩と中心窩から同一方向に同一の距離にある網膜上の点である。
 両眼の像は両眼視差のため一致しない.この 不一致が大きいほど遠近感が強くなる。大脳皮質視覚野の細胞には両方の眼から入力を受けるものが多く見つかる。そして、両眼視差のちがいに対し異なった反応を示す細胞が存在する。これらの細胞は各々異なった遠近情報をもっていると考えられる。