「感覚器系」ユニット講義録13

月日(曜日) 時限 担 当 講義内容 SBOs番号
11月18日(月)
2
田 岡
聴覚 B-1,2

SBOs
B「聴覚」
 1)外耳・中耳の伝音機構を説明できる。
 2)聴覚の伝導路を説明できる。

聴覚
1.聴覚と音
(1)音とは
 空気の振動である。
 周波数が大きければ、高い音と感じる。また、音の強さが大きければ大きい音と感じる。

(2)音の強さの表現:
 dB(デシベル)
 ある基準音に対するエネルギーの比で表現する。
 振幅P1の音を基準とした時の振幅P2の音をdBで表示すると
 10log(P2/P1)2(dB)もしくは20log(P2/P1)となる。
 (音のエネルギーは振幅の自乗に比例するので、(P2/P1)2となる。)

 正常人の1000Hzの音の閾値に相当する強さの音を基準音として使う。すなわち、
 P1=0.0002dyne/cm2
 である。

(3)ラウドネス
 人が感じる音の大きさは周波数により違う。つまり同じ音の強さでも周波数が違えば違う大きさに聞こえる(人の可聴域曲線参照)。
 そこで周波数の異なった音と1000Hzの音を比較して同じ大きさに聞こえる1000Hzの音を決める。次にその1000Hzの音のdB単位をきめる。このようにしてきめたその音の大きさをphonであらわしたものをラウドネスという。
(例)
 ささやき 40phon
 普通の会話 60〜70phon
 騒がしい所 60〜80phon
 地下鉄 100phon
 雷 鳴 120phon
 ジェット機 160phon

(4)人の可聴域
 人は20Hzから15000Hzぐらいまでの音を聴くことが出来る.感度が良いのは500-5kHzである。これは会話に使う音の周波数に対応する。

2.聴覚系末梢I−インピーダンスマッチング
(1)耳介
 耳に手を当てたり、頭部を音源に向けたりすると大きく聞こえることから分かるように、耳介は音の集音装置(パラボラ)として働く。5kHz前後の音では10-12dB増幅される。
(2)外耳道
 外耳道は一端は鼓膜で仕切られ、もう一端が開放された長さ約2.5cm、直径0.7cmの筒状の共鳴管と考えることが出来る。2-5kHzの音はよく共鳴し増幅される。2.5kHzで17dBの増幅が最大である。
(3)鼓膜-耳小骨-蝸牛内リンパ
 空気の振動は鼓膜の振動に変換される。この振動は耳小骨により蝸牛のリンパ液に伝えら、最終的に基底膜の振動に変換される。
 この過程はインピーダンスマッチングと呼ばれる。つまり、気体の振動を効率よく液体の振動に変換する仕組みである。
 @鼓膜の面積とあぶみ骨(が卵円窓に接する)面積の比17:1
 A耳小骨のてこの作用。約1.3倍
 などにより、増幅される。

 結局、耳介から耳小骨までで0.1kHz から5kHz の音が効率よく蝸牛内のリンパ液の振動に変換されることになる。

 単に空気と液体が接しているときは、空気から液体に伝播するエネルギーは全体の0. 1%にすぎず、99.9%は反射してしまう。空気から蝸牛内のリンパ液への伝播もこのような損失が起こり得る。この損失を少なくするのが、インピーダンスマッチングである。

3.聴覚系末梢II−蝸牛の音受容機構
 蝸牛は基底膜の振動(機械的エネルギー)を有毛細胞の受容器電位(電気的エネルギー)に変換し最終的に神経の活動電位とする機能を持つ。
(1)内耳の構造
 骨迷路は側頭骨内に生じた空洞である。この中に膜迷路がある。膜迷路内のリンパを内リンパ、外にあるものを外リンパという。
 蝸牛(cochlea)は骨の管が蝸牛軸を軸として巻いた構造をし、管を引き延ばすと、長さ約3〜3.5cmになる。その内部に膜迷路である蝸牛管がある。人では蝸牛は2回転と3/4回転だけ巻いている。
 蝸牛管の横断面は三角形をなし、上側には前庭膜(Reissner's or vestibular membrane)下側には、基底膜(basilar membrane)がある。基底膜には音の受容器であるコルチ器官(organ of corti)がある。
 この蝸牛管によって、蝸牛は3つの階に分かれる。
 @上部、前庭階(scala vestibuli)
 A蝸牛管、中階(scala media)ともいう。
 B下部、鼓室階(scala tympani)。
 蝸牛底では前庭階は卵円窓(oval window)に移行し、鼓室階は正円窓につながる。また蝸牛管の蝸牛頂で前庭階と鼓室階は連絡している。

(2)音受容機構
 耳小骨より伝わった振動は卵円窓(前庭窓)で外リンパ液の振動に変わる。ついで前庭階の外リンパの振動は、薄い前庭膜を通じて内リンパに伝えられ、基底膜を振動させる。このとき、各周波数の音は、異なった場所の基底膜を大きく振動させる。すなわち、音はその構成周波数要素に分解された後に、コルチ器官で受容される(この考え方を場所説という)。

 蝸牛内の電位と有毛細胞の細胞内電位
 蝸牛内では、前庭階、鼓室階内の外リンパは〔Na+〕大〔K+〕小の細胞外液の性質をもつ。これに反し、中階(蝸牛管)内のリンパはそれよりも〔K+〕が大きく、(前庭階の電位を0としたとき)+80〜100mVの電位となっている。これをendocochlear potential(蝸牛内電位)という。鼓室階は前庭階と同じ電位である(0mV)。内有毛細胞は-40mV、外有毛細胞は-70mVの細胞内電位を持つ。従って、中階に対しては更に蝸牛内電位を足した電位差が存在することになる。有毛細胞の聴毛が傾くとチャネルが開き、K+が細胞内に流入し、脱分極する。


 基底膜の受動的振動と能動的振動
 受動的振動
 Bekesyは人の死体の内耳を切り出し、水中で前庭窓から伝磁石によって蝸牛内に振動を送り、基底膜の動きを顕微鏡下で観察した。その結果、蝸牛底部の基底膜に振動が起こると、その振動は進行波となって、蝸牛頂部に向かって伝播する事がわかった。この進行波の伝達範囲及び蝸牛各部での振動の振幅が刺激音の周波数によって異なる。進行波の振幅は先端に向かうと徐々に増大し、最大振幅に達した後、急に減衰する。
低音による進行波は蝸牛頂まで達し、その振幅の最大は蝸牛頂である。周波数が高くなるに従って伝播範囲は狭くなり、高音による進行波は蝸牛底に限局、振幅最大は蝸牛底である。

 能動的振動
 蝸牛神経の周波数同調曲線はBekesyの観察した死体から取り出した基底膜の同調曲線よりはるかに先鋭化している。また、生きた動物の基底膜でははるかに先鋭化した周波数同調を示す。同調曲線は基底膜上の特定の場所の虚血でその周波数に対応した周波数同調を示すニューロンで悪くなる。
 これは外有毛細胞の「収縮と伸張」により基底膜が能動的に振動することによる。つまり、外有毛細胞は細胞内電位の変化に対応して収縮・伸張する。これにより、ある周波数の音刺激に対して、基底膜の特定の場所の振動が増幅されることになる。

 有毛細胞と蝸牛神経終末はシナプスでつながっている。有毛細胞から蝸牛神経への興奮伝達の機序は次のように考えられている。基底膜が上下振動すると被蓋膜により有毛細胞の毛が曲げられ、受容器電位が生じる。この脱分極は有毛細胞から化学伝達物質を分泌する。それによって蝸牛神経末端に起動電位が生じる。これが電気緊張的に神経線維の興奮膜に達し、興奮を引き起こす。


3.聴覚系中枢
(1)聴覚伝導路
 蝸牛の内外有毛細胞を支配する神経細胞は蝸牛軸にあるラセン神経節にある。その軸索突起は蝸牛神経である。蝸牛神経は、脳幹に入り蝸牛神経核に入力する。蝸牛神経核の2次ニューロンは、対側の上オリーブ核に行く。また一部の線維は同側の上オリーブ核に終わる。ついで、上オリーブ核から外側毛帯 (lateral lemniscus) となり外側毛帯核、下丘、内側膝状体をへて、聴放線となる。聴放線は、側頭皮質にある聴覚野(41野)に達する。

(2)蝸牛神経線維の神経インパルス
 蝸牛神経から単一蝸牛神経線維のインパルスを記録すると、各ニューロンは、特徴周波数(best of characteristic frequency)を持っている。この周波数で最も閾値低い。これより高い周波数及び低い周波数の音に対する感度は低下する。

 聴神経は人では3万本ぐらいある。有髄(I型、90%)と無髄(II型、10%)がある。I型は内有毛細胞とシナプス結合している。1個の内有毛細胞に約20本の神経が連絡している。一方、II型は一本が枝分かれして約10個の外有毛細胞と連絡している。したがって、主に内有毛細胞から情報が上位中枢に送られれていることになる。
 ある蝸牛神経の特徴周波数は、その神経線維が基底膜上のどの内有毛細胞とシナプス結合しているかで決まる。つまり、先端(蝸牛頂)に近い内有毛細胞とシナプス結合する線維は低い周波数に同調しており、蝸牛底に近い内有毛細胞とシナプス結合する線維は高い周波数に同調している。一方、音の強さは蝸牛神経の発火頻度で表現されている。

(3)上位中枢ニュ−ロンの応答
 上オリーブ核群ニューロンの両耳性ニューロン
 上オリーブ核は両耳性ニューロンが見つかる初めての神経核である。両耳性ニューロンでは左右の音刺激に対する周波数同調は等しい。
 IIDニューロン(両耳間強度差検出ニューロン)
 同側から興奮性、対側からは抑制性の入力を受ける。左右の音の強度差の検出に役立っている。具体的には、左右の音圧差がないと発火頻度は変化しないが、同側が強いと興奮性、対側が強いと抑制性の応答をする。
 ITD(両耳間時間差検出ニューロン)
 左右の耳がある時間差で刺激されたとき、発火する。
遅延線を経て両側から興奮性入力があり、左右からの入力が同時にあると発火する性質を持つ。左右の耳がある時間差で刺激されるとITDニューロンには遅延線をへて入力されるため、ITDニューロンのあるものには同時に入力する。そのニューロンは結果として左右の耳に特定の時間差で入力した音にのみ反応することになる。

 周波数と音源定位
 周波数の低い音は左右の耳で音圧差が生じにくい。一方、周波数の高い音は遠いほうの耳に届きにくい。したがって、周波数の低い音は両耳間時間差検出に適しており、周波数の高い音は音圧差を検出するのに適している。人間では1kHzの周波数の音がその境になっている。
 動物実験では上オリーブ核におけるIIDとITDニューロンの特徴周波数はIIDが特徴周波数が高く、逆にITDニューロンは特徴周波数が低い。

 下丘
 先鋭化した周波数同調曲線をもつニューロンが順序良く並んでいる。特徴周波数は背側が低く、腹側が高い。側方抑制による周波数同調の先鋭化の機構が存在すると考えられている。

(4)皮質聴覚野
 視床内側膝状体から入力を受ける一次聴覚野は41野である。ここには、tonotopic organization がある。前側が低い周波数、後側は高い周波数を再現するという。