非放射性キセノン吸入法による
低体温療法時の脳血流変化計測の検討


東邦大学医学部付属大森病院 

中央放射線部
〇市川浩司/森田良昭/武田稔之

【目的】

 当院では重症脳障害の回復治療として低体温療法を行っいる。我々は低体温中のCBF(ml/min/100g)(Cerebral Blood Flow 以下CBF)を経時的に計測し、その変化が予後にどのように影響するかを検討した。



【対象】

 199911月から1年間で当院救命救急センターにおいて施行した低体温療法中の10症例(男性6名、女性4)に対して人工呼吸器を介してキセノン吸入装置を接続し、CBFを計測した。




Fig.1 キセノン吸入装置の接続例

【吸入およびデータ収集条件】

 吸入法は、30%キセノンによる4分吸入5分洗い出しで、データ収集は120kV200mA2秒スキャンで、1分間隔に計10スキャンを3断面に対して行い、CBF Mapping画像を作成し脳温の変化によりCBFがどのように変動するかを計測した。




Fig.2
 
 dynamic-scanのタイムテ‐ブル



Table.1 使用機器および造影剤




予後良好例
脳内出血
Fig.3 低体温療法開始時のCT画像図
復温に伴い
CBFも上昇している。



Fig.4 症例1CBF変化
Fig.5 症例1のflowマップの変化


予後不良例
クモ膜下出血
Fig.6 低体温療法開始時のCT画像
低温期にCBFが上昇している。



Fig.7 症例2CBF変化
Fig.8 症例2flowマップの変化



【全10症例と予後】
Fig.9 低体温開始時のCBFと予後の関係

導入期でのCBFの低下が大きい症例は予後が比較的良好である。

【まとめ】

低体温療法の導入期や復温期に伴いCBFも変化した症例や,導入期でのCBFの低下が大きい症例は予後が比較的良好であり、復温に伴いCBFが上昇しなかった症例や、低温期にCBFが上昇してしまう症例では予後が比較的不良であった。





【結語】

低体温療法が重症脳障害に対して有効であるかを判断するには、治療中の血行動態を把握することが非常に重要である。脳温の変化に伴ってCBFを経時的に計測することで、治療中の血行動態を把握することができ、また脳の循環血流量を制御する機構が正常に機能しているか簡便に知ることができ、低体温療法の有効性を吟味する上で本方法は有用であるといえる。