3D MRAにSORS-STCパルスを併用し頚部血管
撮像における描出能の検討



        東邦大学医学部付属大森病院  中央放射線部

          ○ 大橋直樹   大久保卓史  小島治朗  菊地英夫
            東芝メディカル   松原智子  広瀬久美子        


【目的】

頚部血管撮像法の1つである 3D-TOF MRA法に
SORS-STC(Slice−Selective Off−Resonance Sinc Pulse−Saturation Transfer Contrastパルスを併用し静脈信号、背景信号の抑制を行い頚部血管の
描出能の比較検討を
行ったので報告する。


【検討方法】
1.TEの違いによる評価
2.スラブ数の違いによる評価
3.ISCEの違いによる評価
(Inclined Slab for Contrast Enhancement)
4.Pre-saturationパルスとSORS-STCパルスとの比較
5.SORS-STCパルスの印加角度の違いによる評価


【使用機器】
東芝製 MRI装置 EXCELART with pianissimo(1.5T)Version 4.10

【使用コイル

CTL脊椎QD Phased Array Coil

【ボランティア】
正常ボランティア 21歳〜50歳  15名(男性10名  
女性5名)


 図.1 SORS-STCパルス概念図


 SORS-STCパルスの照射領域というのは撮像領域にある自由水の共鳴周波数とは
異なる共鳴周波数位置にあるため、SORS-STCパルスが照射されても、撮像領域にある自由水・結合水は、直接その影響を受ける事はない。

 しかし、SORS-STCパルスの照射領域には結合水が存在するため、SORS-STCパルスを連続的に照射すると、SORS-STCパルス照射領域にある結合水は、その影響を受ける事になる。SORS-STCパルスで飽和された結合水は、磁化移動によって、撮像領域にある自由水・結合水に広がりその信号強度を低下させる。

 
このことを利用し、SORS-STCパルスをOff-Resonanceに 照射することで、撮像領域の背景信号を抑制することが可能となる。


SORS-STCパルスのシーケンスチャート




 Fig・1 TE 3.8とTE 6.8による画質の変化
TE3.8
TE6.8
 TR30 FA20


. TEの違いによる評価

 理論的には,血管の描出能は TEの短い3.8の方が 優れていると思われた。しかし 実際は、TE短縮に伴い 背景の信号強度も上昇してしまうため、血管が背景信号に埋もれてしまい、読影には TE 6.8が有用であった。


Fig・2スラブ数による 画質の変化


1スラブ 2スラブ 3スラブ 4スラブ

 TR30  TE6.8  FA20 

.スラブ数の違いによる評価

 撮像領域を約15cmに固定して スラブ数を変化させて評価を行なった。撮像領域を固定しているため、スラブ数の変化に伴い、1スラブ内の撮像枚数が異なる。(下表参照)ISCEの設定に関わらず、3スラブ以上になると スラブ間のつなぎ目が目立ってくる。血管の描出能自体は、1スラブでは流出部信号の低下が顕著で、スラブ数を増加させるとともに流出部が描出されてくるが、スラブのつなぎ目がのように描出されてしまう。血管の描出能に優れ、つなぎ目が目立たず、実用的に使用できる撮像条件として、2スラブの撮像条件が適していると思われた

表・1 スラブ数を変化させた時の撮枚数と時間
オーバーラップの量は、スラブの30%を目安に設定している

Fig・3 ISCEの違いによる 画質の変化


ISCE1:1 ISCE1:2 ISCE1:3

 TR30  TE6.8  FA20 

. ISCEの違いによる評価

 スラブ数を2スラブに固定し、ISCEを変化させて撮像した。ISCEを 1:1 1:2 1:3 と変化させることにより、撮像領域における血管の流出部において、描出能に差が見られた。TOF法における流出部の血管信号低下は、ISCE 1:3の条件にて最も改善されていた。また、血管と背景のコントラストについては、Flip Angleをより大きく変化させる、ISCE 1:3の条件にて 撮像を行った画像が優れていた。以上の結果より頚部血管描出には、ISCE 1:3が最も適していると思われた。


Fig・4Pre-saturationパルスとSORS-STCパルスの違い


Pre-sat 90deg SORS−STC 90deg SORS-STC 300deg

TR30 TE6.8 FA20 ISCE1:3 2スラブ



4.Pre-saturationパルスとSORS-STCパルスとの比較
              〜 SORS-STCパルスの印可角度の評価 〜

Pre-saturationパルスとSORS-STCパルスの印可角度が同じであれば血管の描出能に大差はなかった。SORS-STCパルスは、最大強度で使用した場合の描出能が最も良かった。SORS-STCパルスのRF印可角度は、大きくするほど背景信号が抑制されたが、RF印可角度を大きくするとTRが延長するため、TRが延長しない範囲で  SORS-STCパルスを印可するのが望ましいと思われた。


Fig・5  SORS-STCパルスを用いた頸部MRA



TR30 TE6.8 FA20 ISCE1:3 2スラブ SORS-STCパルス300deg

【結語】
SORS-STCパルスは、血流信号への影響を抑えて、効果的に背景信号を低下させる事ができ、同時に静脈信号を抑制する効果もある。最適化された SORS-STCパルスを、3D-TOF法と併用することにより、頚部血管の描出能を 向上させることが可能であると思われた。