国立代々木競技場

★★★★

丹下健三(1964)

日本を代表する現代建築をひとつ挙げよと言われたら、私は迷わず、この国立代々木競技場を選びます。そもそもこの作品は、そのような「代表的建築」となることを意図して造られたのだとすら思います。山嶺とも見まがう雄大な形態は、神社仏閣を意識したものだと言われます。他方、それを支える技術は、ケーブルを用いた吊り構造で、これは先例のないものだったそうです。一言で言えば、日本の伝統に立脚しつつ未来を見据え、わが国独自の現代建築はいかにあるべきか、問おうとする意欲に溢れているのです。

これが造られたのが、戦後初めて世界中のメディアの注目が東京に集まる、東京オリンピックの機会であったことは偶然ではないでしょう。この機会に、世界に何を見せたものかと考えたとき、この形態と技術に解を見出した丹下は、じつに高い志の持ち主であったと思います。このことは、これを東京タワーや霞ヶ関ビルのような作品と比べてみると、よくわかります。東京タワーや霞ヶ関ビルも、たしかに立派な作品ですし、地震国日本にそれらの建築物を造ることには、並々ならぬ努力があったことでしょう。しかしそれらは所詮、パリにあるものを東京にも造ろう、ニューヨークの摩天楼を東京に築いてみよう、という発想の延長線上にしかありません。それに対して、この国立代々木競技場からは、はるかに強い野心と自己主張を感じ取ることができます。敗戦から立ち直り高度経済成長を迎えた日本が、日本の現代建築とは何かを、世界に発信しようとした作品なのです。

そのような歴史的象徴性を背負いながら、この作品は40年を経た現在も、当時の力の漲りを放ち続けています。巨大な空間を支えるケーブルとコンクリートには緊張感がはりつめ、地面から徐々に高みへとのぼってゆくシルエットを見上げると、精神の高揚を感じます。安藤忠雄も、この作品にはとりわけ感銘を受けたそうで、「代々木の体育館の傍らを通るたびに、強く心動かされるのは、私だけではないだろう」(日経アーキテクチュア『丹下健三』)と言っています。私自身、何度となくここを歩き、心の励みとしたものです。

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