長久手町文化の家

香山壽夫(1998)

香山はペンシルヴァニア大学でルイス・カーンに師事した経歴を持ち、カーンの深い影響を受けたそうです。私はこれまで残念ながら、カーンの作品の実物を目にしたことがありません。写真を通じて見るかぎりでは、「光」「コンクリート」「禁欲」といった言葉が、その作品を特徴づけるキーワードとして浮かびます。そこでは、装飾を排したシンプルなコンクリートの幾何学的物体を光が照らし出すのですが、それは暗闇をえぐる強い一条の光でもなければ、さんさんと降り注ぐあふれるばかりの光でもなく、無色透明の清らかな光なのです。

香山のこの作品は、コンクリートと光の使い方という点で、カーンの影響を明瞭に感じさせるものです。とりわけ建物の中央部分を、コンクリートがアーチ状に被さった立方体の空間が占め、そこに上から光が注ぐという構図は、まさにカーン流と言えるのではないでしょうか。

他方、「禁欲」という点に関しては、この作品はかなり異なる方向性を持つように感じられます。パステル調の色づかいは、緊張よりは安らぎの感覚を狙ったものと思われます。また、幾何学的にシンプルとは言い難いごちゃごちゃした館内を、空中を行き交う渡り廊下が結びつけるという空間設計は、立体迷路的と言いますか遊園地的と言いますか、遊び心に満ちたものです。

問題は、これが一つの作品として、確固とした統一性を有するかどうかです。そこのところが私には、どれほど見てもよくわかりません。失礼ながら、悪く言えば、これはいささか折衷的な要因を残した「カーン建築、お子ちゃまランチ風」ではないかと思えてならないのでした。

ちなみに、長久手という地名は小牧・長久手の戦いの舞台として歴史に名を残していますが、ここには旧市街と呼べるものはないようで、史跡の類も貧弱です。その意味ではこの「文化の家」も、この町にあっては上等と言える部類に属するのではないかと思われました。

長久手町文化の家長久手町文化の家長久手町文化の家長久手町文化の家

<写真はクリックすると拡大します>


ARCHITECTURE HOME