情報数理C

1.4:素因数分解

定義 1.16
$p$を$1$でない自然数とする.$p$の正の約数が$1$と$p$のみのとき,$p$を素数と呼ぶ.また$p$が素数でない,つまり,$1$と$p$以外の正の約数を持つとき,$p$を合成数と呼ぶ.
中学校で素因数分解を学んだと思うが,ここでは,$0$でないどんな整数も素因数分解でき,しかもその表示は一意的であることを証明する. まずは次の命題を示す.
命題 1.17
素数$p$と整数$a,b$に対し, $p | ab$ならば$p | a$または$p |b$が成り立つ.
証明
$ p | ab $のとき,$p \nmid a$を仮定する.このとき$a$が素数なので,$a$と$p$は互いに素である.よって命題 1.11より$p | b$が従い証明が完了した.
この命題の$p$が素数という条件は絶対必要である.実際,$6 |12$だが$6 \nmid 3$かつ$6 \nmid4$である.それでは素因数分解に関する定理を証明する.
定理 1.18 (素因数分解の存在とその一意性)
$n$を$0,\pm1$でない整数とする.このとき,ある有限個の素数$p_1,\ldots,p_s$(重複可)が存在して \[ n=\pm p_1 p_2 \cdots p_s \] と書ける.ただし,符号は$n>0$のとき$+$,$n\lt 0$のとき$-$をとる.この表示を$n$の素因数分解という. また素因数分解は$n$に対して,(素数の順番を除いて)一意的である.
証明
まずは存在を示す. $|n|$が素数のときは$n=\pm |n|$が欲しい表示であるので存在する.特に,$|n|= 2$で成り立つ. 次に,$3$以上の整数$k$に対し,$1 \lt |m| \lt k$を満たす任意の整数$m$が素因数分解を持つと仮定する.このとき$|n|=k$を満たす整数$n$が素因数分解を持つことを示す.$k$は合成数であると仮定してよい.つまり$1$でない自然数$a,b$を使って$k= ab$,特に$n=\pm ab$という表示を持つ.このとき$1\lt a,b \lt k$であるので,帰納法の仮定から$a$と$b$は素因数分解を持つ.それを$a=p_1 p_2 \cdots p_s, b=q_1 q_2 \cdots q_r$とする. すると \[ n=\pm p_1 p_2 \cdots p_s q_1 q_2 \cdots q_r \] となり,$n$は素因数分解を持つ.したがって,$|n|$に関する帰納法より素因数分解の存在が示された.

次に一意性を示す. これは$n$が素因数分解の表示として \[ n=\pm p_1 p_2 \cdots p_s=\pm q_1 q_2 \cdots q_r \] という2つの表示が与えられたとき,$s=r$かつ適当に順番を並び替えることにより$p_1=q_1,\ldots,p_s=q_s$となるようにできることを言えばよい.これも$|n|$に関する帰納法で示す.$|n|$が素数のときは,$n=\pm |n|$という表示が一意的であることは容易にわかる.特に,$|n|=2$で成り立つ.次に,$3$以上の整数$k$に対し,$1 \lt |m| \lt k$を満たす任意の整数$m$の素因数分解が一意的であると仮定する.このとき$|n|=k$を満たす整数$n$の素因数分解が一意的であることを示す.$k$は合成数であると仮定してよい. \[ n=\pm p_1 p_2 \cdots p_s=\pm q_1 q_2 \cdots q_r \] という2つの素因数分解の表示が与えられたと仮定する.$k$が合成数であるので$s,r \geq 2$である. $p_s | \pm q_1 q_2 \cdots q_r$であるから,命題 1.17を繰り返し使うことで,$p_s$は$q_1,\ldots,q_r$のいずれかを割り切る.必要なら$q_1,\ldots,q_r$の順番を並べ替えることで$p_s | q_r$としてよい.このとき,$p_s=q_r$である.一方, \[ \dfrac{n}{p_s}=\pm p_1 p_2 \cdots p_{s-1}=\pm q_1 q_2 \cdots q_{r-1} \] となるが,$p_s >1$から$1 \lt \left| \dfrac{n}{p_s} \right|\lt k$であるから,帰納法の仮定より整数$\dfrac{n}{p_s}$の素因数分解は一意的である.つまり,$s-1=r-1$,つまり$s=r$かつ適当に順番を並び替えることにより$p_1=q_1,\ldots,p_{s-1}=q_{s-1}$となるようにできる.よって$p_s=q_r$と合わせることで$n$は一意的な素因数分解を持つ.したがって$|n|$に関する帰納法より,素因数分解の一意性が示された.
補足 1.19
整数の素数を環に拡張した概念として素元というものがある. また掛け算に関して逆元を持つ元を単元という.例えば,$\mathbb{Z}$では単元は$\pm 1$のみである. どんな$0$でも単元でもない元が素元の積として一意的に書ける環を一意分解整域(UFD)という.したがって,整数の集合$\mathbb{Z}$は環として見ると一意分解整域となっている.補足 1.12で$\mathbb{Z}$は単項イデアル整域になっていると説明したが,実は単項イデアル整域はいつでも一意分解整域となる.つまり \[ ユークリッド整域 \Rightarrow 単項イデアル整域 \Rightarrow 一意分解整域 \] である. したがって$\mathbb{R}[x]$も一意分解整域である. このように概念を拡張することで,例えば$\mathbb{Z}$の素因数分解の一意性や$\mathbb{R}[x]$の因数分解の一意性は,本質的に同じということがわかる.特に,この性質は一番はじめに定義した「余りを考慮した割り算」が鍵となっている.