目黒区総合庁舎=旧千代田生命本社ビル

★★★

村野藤吾(1966)

2000年に千代田生命が破綻し、ニュースに本社ビルの社屋が映し出されたとき、その純白の美しさに息をのんだのが、私とこの作品の出会いです。数か月後、自ら足を運んでみますと、予期した以上にスケールが大きく、その圧倒的な白さにひたすら感銘したのでした。当時は人の気配もなく、静謐な、気高い、じつにすばらしい姿でした。

曲線と曲面を多用した有機的な空間を特徴とする村野にしては、外観は水平垂直の線が明快に打ち出され、幾何学的な秩序が体現されています。したがって一見、モダニズム指向の強い作品に見えるのですが、決してそんな単純なものではありません。

そのひとつとして、池の存在を挙げることができるでしょう。池は地表面よりも低く位置し、敷地外からは窺い知ることができません。実際、千代田生命の破綻後、目黒区役所として生まれ変わるまで、私は何度もここを訪れたにもかかわらず、池の存在には気付くことすらありませんでした。その結果、敷地内に初めて足を踏み入れたとき、眼前に展開してゆく未知の光景に三たび驚嘆することとなったのです。

また、正面玄関奥に位置する階段も有名です。華奢で繊細で、その有機的な曲線美は、外観の幾何学性と強い対照をなしています。さらに、地下には茶室などの和風空間が展開し、まさに別世界を構成しています。このように、村野作品の奥深さを余すところなく体現した傑作なのです。

先にふれたように、現在ここは目黒区の庁舎として利用されています。区がこの高い買い物をすることに関しては賛否両論があったようで、そのことと直接の関係があるのかどうかは知りませんが、当時の区長は首を吊って死にました。しかし結果として、区はこの作品に最小限の改修を行うにとどめて使い続け、今では一般の人が自由に入れる空間となったのです。

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