1.1:整数の割り算
整数の性質を考える上で,割り算の「余り」を考えることは非常に重要である.まずは整数上の「割り算」を厳密に定義することからはじめる.ただし,ここで考えたいのは「$5 \div 2=2.5$」のように小数点以下まで考える割り算ではなく,「$5 \div 2=2余り1$」のように,小学生の頃学習した「余りのある割り算」である.定義 1.1
整数$n$を整数$d (\neq 0)$で割るとは,整数の組$(q,r)$で条件
を満たすものを見つけることである.特に,$q$をこの割り算の商,$r$を余りという.
すると,上で述べた「$5 \div 2=2余り1$」という割り算は$n=5,d=2$に対して,$(q,r)=(2,1)$という整数の組を見つけることを意味している.特に,$5=2 \times 2 +1$という表示がこの割り算では重要となる.またこの定義を使えば,負の整数の割り算に関しても「余り」を定義することができる.ただし,「余り」がいつでも非負になることに注意する.例えば,$-7$を$-3$で割ると,$-7=(-3) \times 2+(-1)$という表示があるが,$-1$は余りではない.$-7=(-3) \times 3+2$という表示の$2$が余りとなる.
さて,小学校の頃を思い出すと,整数の割り算では,商も余りも必ず存在し,さらにその答えが一つ(一意的)であった. この性質は割り算において非常に重要である.これを証明する.
定理 1.2 (剰余の定理)
整数$n$と整数$d (\neq 0)$に対し,整数の組$(q,r)$で条件
を満たすものが一意的に存在する.
証明
$d \neq 0$なので,
ある整数$q$で$|d| q \leq n \lt |d|(q+1)$
となるものが存在する.$r=n-|d|q$とすると,$0 \leq r \lt |d|$である.$d > 0$の場合はこの$(q,r)$は条件(1),(2)を満たす.
一方,$d \lt 0$の場合は,$q$を$-q$に取り替えることによって$(q,r)$が条件(1),(2)を満たす.
よって条件(1),(2)を満たす整数の組$(q,r)$がいつでも存在する.
次に一意性を言うために,$(q,r)$と$(q',r')$がともに条件(1),(2)を満たす整数の組とする. このとき,$n=dq+r=dq'+r'$なので,$d(q-q')=r'-r$が従う. $0 \leq r \lt |d|$および$0 \leq r' \lt |d|$から \[-|d| \lt r'-r \lt |d|\] が成り立つ.特に,\[0 \leq |r'-r| \lt |d|\]である. したがって, \[ 0 \leq |d| \cdot |q-q'| \lt |d| \] から \[ 0 \leq |q-q'|\lt 1 \] となるが,$q-q'$は整数なので,$q-q'=0$,つまり$q=q'$が得られる.上の等式に代入することで,$r'-r=0$,つまり$r=r'$も得られ,一意性が示された.
次に一意性を言うために,$(q,r)$と$(q',r')$がともに条件(1),(2)を満たす整数の組とする. このとき,$n=dq+r=dq'+r'$なので,$d(q-q')=r'-r$が従う. $0 \leq r \lt |d|$および$0 \leq r' \lt |d|$から \[-|d| \lt r'-r \lt |d|\] が成り立つ.特に,\[0 \leq |r'-r| \lt |d|\]である. したがって, \[ 0 \leq |d| \cdot |q-q'| \lt |d| \] から \[ 0 \leq |q-q'|\lt 1 \] となるが,$q-q'$は整数なので,$q-q'=0$,つまり$q=q'$が得られる.上の等式に代入することで,$r'-r=0$,つまり$r=r'$も得られ,一意性が示された.
補足 1.3
足し算,引き算,掛け算ができる集合を環という.もちろん整数の集合$\mathbb{Z}$は環である.環の中でも「余りを考慮した割り算」ができる環をユークリッド環という.他の例として,実数係数の(1変数)多項式全体の集合$\mathbb{R}[x]$はユークリッド環である(高校数学の多項式の割り算を思い出そう).このユークリッド環が後々見る整数の性質と深く関わっている.
次に整数に関する幾つかの用語を定義していく.
定義 1.4
整数$n$が整数$d (\neq 0)$の倍数である(または$d$は$n$の約数である)とは,ある整数$x$が存在して,$n=dx$と書けるときにいう.これは,$n$を$d$で割ったときの余りが$0$となることと同値である.このとき,$d$は$n$を割り切るといい,$d |n$と書く.$d$が$n$を割り切らないときは$d \nmid n$と書く.
例えば,$2 | 6$,$2 \nmid 5$,$-3 | 6$である.
補足 1.5
任意の整数$0 \neq d \in \mathbb{Z}$に対して,$0=0\cdot d$であるので,$d$は$0$の約数である.つまり$d | 0$がいつでも成り立つ.
定義1.6
整数$a_1,\ldots,a_n \in \mathbb{Z}$を考える.ただし少なくとも1つは$0$でないとする.
例えば,$\gcd(-3,6,-9)=3, {\rm lcm}(-6,9)=18$である.また$\gcd(2,4)=2$なので,$2$と$4$は互いに素ではないが,$\gcd(2,3,4)=1$なので,$2,3,4$は互いに素である.
- 整数$d$が$a_1,\ldots,a_n$の公約数であるとは,任意の$1 \leq i \leq n$に対して$d | a_i$が成り立つときにいう.公約数のうち最大のものを最大公約数 (greatest common divisor)といい,$\gcd(a_1,\ldots,a_n)$と書く.特に,$\gcd(a_1,\ldots,a_n)=1$のとき,整数$a_1,\ldots,a_n$は互いに素という.
- 整数$\ell$が$a_1,\ldots,a_n$の公倍数であるとは,任意の$1 \leq i \leq n$に対して,$a_i | \ell$が成り立つときにいう.正の公倍数のうち最小のものを最小公倍数 (least common multiple)といい,${\rm lcm}(a_1,\ldots,a_n)$と書く.